第8話
あの、今なんて……?
聞き返そうとした私の首根っこを掴み、まるで子猫を運ぶ親のようにして私を立たせる先輩。
「ちなみに、お前の部屋はここ」
そう言って、さっき先輩が出てきたのとは逆方向にある扉を開ける。
「んにゃ!?」
大きなダンボールが3つ。
デンデンデンッ!!
と置かれたその部屋に、ポイッと投げ出される私。
「トイレとシャワーはさっき俺が出てきたところ。俺の部屋はこの隣だから」
それだけ言うと、バタンッとドアは閉められてしまった。
な……なに?
部屋の中を見回して見れば、ベッドにテーブル。
本棚に冷暖房器具と、一通り揃ってはいるけれど……。
「人の部屋に住む事になったって……」
ペタンと座り込んだまま、呟く。
つまり、私はこの寮の中で女1人の上に、白夜先輩と同じ部屋ってこと――!?
しかもしかも、この荷物はどう見ても実家から送られてきた私の荷物なワケで。
それはつまり、両親はすでにこの事を認めているというワケで。
「えぇぇぇ~!!?」
豪華な寮内に、私の悲鳴に似た叫び声がこだましたのだった。
「騙しましたね!?」
バンッと食堂のテーブルを叩き、青葉先輩を睨みつける。
ただいま寮内は夕食時。
私を入れて5人の生徒だけが大きなテーブルを囲んで、有名料理店の料理を食べている。
向かい合って座っていた私は我慢の限界がきて、怒鳴ってしまったのだ。
「どうしたの? 食事中に」
「どうしたもこうしたもないです! 私、聞いてません!」
「なにを」
「白夜先輩と同じ部屋だなんて、聞いてません!!」
そう怒鳴り、また机を叩いた。
「ちなみに、この机はヨーロッパのアウティーが作った一千万円の品物だ」
静かな声でツンツン頭の光輝先輩に言われて、私は思わず両手をパッと離した。
一千万円の机……!?
アウティーなんて名前は聞いたことがないけれど、叩いてしまった事をひどく後悔する。
なんてったって、私の家は今貧乏なのだから。
「白夜と同じ部屋だと知ってたら、どうしたんだ?」
「知ってたらここに来る事なんてなかったです」
キッパリとそう言いきり、今度はフォークをギュッと握り締めた。
「君は、白夜が嫌い?」
その問いかけに、一瞬言葉を失う。
「別に、嫌いとかじゃないですけど……」
だいたい、会ったばかりなのだからそんな感情さえ持っていない。
「女と男だからって、こと?」
「そうです」
頷くと、
「ってことは、処女だな」
と、光輝先輩が横槍を入れてきた。
「な……っ!」
なんてこと言うのこの人は!?
「男女の関係になることが、怖い?」
「……ま、まぁ……」
曖昧に頷くと、青葉先輩はナフキンで口元をぬぐい、「その心配はないから、安心して」と言った。
「え?」
「白夜が君になにか特別な感情を抱く事はない」
ハッキリと言い切られて、一瞬だけ胸が痛む。
「な……んで?」
「白夜は極度の女嫌いだ。特に、君みたいな子は受け付けない」
「な……っ」
『君みたいな子』
その言葉が重たくのしかかってくる。
それって、私が可愛くないから?
全然お嬢様じゃないから?
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