第3話
といっても、もうこの学校ともお別れだ。
教室を出てすぐ、私はスカートのポケットに入っている退学届けを指先だけで確認した。
「別に、こんな学校未練もなんにもないし」
1人歩きながら、自分に言い聞かせるようにして呟く。
この桜ヶ丘学園に入学したのは幼稚園の頃。
そこからずっとエスカレーター式で、現在高校2年生の17歳だ。
「ぜ~んぜん、こんな学費ばっかり高いような学校なんて」
未練なんてない。
やり残した事もないし、あるのは桜子との嫌味の言い争いの思い出ばかり。
だから、こんな所さっさとおさらばするのよ。
だいたい、私は元々お嬢様みたいな生活が嫌だった。
挨拶が『ごきげんよう』なのも嫌だし、制服をちっとも着崩さないのも嫌。
この赤いチェックのスカートには、紋章のついた白いくるぶしソックスよりも黒のニーハイの方が絶対似合う。
切ったり折ったりしてるワケじゃないのに、短かすぎるスカート丈は意味不明。
きっと校長は女子高生の生足が大好きなんだ。
この靴下とスカートをはくたび、何度も何度もそう思った。
「ふぅ……」
校長室の前まで来て、足を止める。
「さすがに緊張するなぁ」
ロクな思い出はなくても今までお世話になった場所だし、退学理由を説明する時の事を思えば気が重い。
でも……行くしかない。
大きく息を吸い込んで、コンコンッと軽くノックした。
「はい」
中から校長の図太い声が聞こえてくる。
「2年B組の花畑です」
「あぁ、どうぞ」
その返事を待ってから、私は木目調の重たいドアを開けた。
「失礼します」
校長室はハマキの香りが漂っていて、すこし視界が白かった。
いつもなら臭いとか、制服に匂いがつくだとか思って嫌なんだけれど、今日はそれが私と校長の間にカーテンを引いてくれて、幾分気分が楽になった。
「あの、お話があるんです」
「なんですか?」
デップリと太った校長が、興味なさそうに私を見る。
「あの、実は、私――」
背中に嫌な汗をかく。
校長の視線が私の足をジロジロと見ているのがわかる。
早く終わらせて出て行こう。
言葉でいえなくても、退学届けを渡せばわかってくれるハズ。
そう思い、私はスカートのポケットに手を突っ込んだ。
え……?
指先に当るハズの紙の感触がない。
「あれ?」
慌てて、ブレザーの内ポケットもさぐる。
ない。
「どうしました?」
私の異変に気づいて、校長が口を開く。
「いえ……あの……ごめんなさい!!」
私は大慌てで校長室を出た。
ない。
ない。
ない!!!
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