雲霞の檻
鈍色の山肌を走り、魔物たちが黎一たちへと迫る。
希少金属を含んだ岩から成った
彼我の距離が詰まる、その前に――。
「
黎一は、力の名を告げた。
視界が、薄暗い祠堂へと移る。魔物たちの属性をざっと思い返し、立ち並ぶ石碑に刻まれた力の中から望むひとつを選び出す。
「……
選んだ
風の
引き換えに水の
愛剣に風を顕す黄金の
「
「
鈍色の空に、数多の白雲が尾を引いた。
「
間髪入れず、黎一はふたたび頭上に
ふたたび
「風の属性を強化した上で、
「
四方城と天叢の、呆然とした声が聞こえる。さすがにタネのいくつかを知っているだけあって、やっていることは分かるらしい。
ちらと蒼乃を見てみると、落ち着き払って抜けてくる魔物がいないかを警戒している。遣っている
「大剛、抜けてくるのだけ警戒しよ?」
「……これを抜けてこれるヤツが、いりゃあな」
光河の声に、御船がうんざりとした声で応える。
その時、
「うへっ⁉ 真上は聞いてないって……」
光河が、慌てふためくのを尻目に――。
「
黎一はアイナの
空から、太刀筋を思わせる白い光が降り注ぐ。黎一の剣の動きに合わせ、
「
黎一は剣に纏う
剣が一振りされる度、渦巻く炎が残った魔物を焼き、空から迫る魔物は
「……舞雪、温存しよう。八薙くんに
「はい。
四方城の
(とはいえ、身内に
ヤナギ隊もとい黎一の
――同じ過程を、二度ほど繰り返した後。
『魔物の反応、消失……。
青い鳥から聞こえる小里の声は、心なしか畏れの感情が乗っているように思えた。
言葉の通り、あたりは魔物たちの骸で埋め尽くされていた。動く影は、どこにもない。
「あの数を、ほとんど一人で……」
「前も同じような光景、見たよねえ。ロイド村でさ……」
天叢と光河のぼやきを聞き流しつつ、あたりを見渡す。
御船もあたりを見回していたが、すぐに舌打ちした。
「……逃げられたみてえだな」
「だな。
御船に応じていると、青い鳥がふたたび羽ばたいた。
『このあたりの魔物は一掃したみたいだから、中継地点にしちゃうね。みんなは少し待ってて。……高峰くん、お願い』
小里の声に応じて、級友たちの緊張が解ける。
察するに、相方の高峰が
「この調子なら案外、楽勝かもね?」
「まだ山に入ったばかりですから。あまり油断はなさらぬように……」
光河と四方城の会話を聞き流していると、ふと蒼乃の視線に気づいた。
珍しく、登山道に入ってからあまり言葉を発しない。代わりになにかを咎めるとも、戒めるともつかぬ視線だけを送ってくる。
(分かってるさ。この山には、なんかある)
黎一は無言で、眼前の景色を見つめた。
陽光を閉ざす雲に覆われた山々が、黎一をにらみ返すようにそびえていた。
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