冷厳なる王
ヴォルフは、突き立てた剣の柄に両手を置く姿勢で立っていた。溶岩洞に浮かぶ台座の真ん中に立つ姿は、威風堂々というにふさわしい。
紋様を描いた革防具と毛皮の
(後ろの奴らは……会談の時と同じか)
黎一は敢えて得物を納めず、ノスクォーツの衛士たちを観察する。
不遜な笑みを浮かべる赤逆毛の男の装備は、紋様つきの革防具と両手の拳闘具のみ。
人を食った表情の水色髪の女は、腰間の
無表情の茶髪の中年、モルホーンも似たようなものだが、発動体らしき得物が見えないのが気にかかる。
(しかしこいつら、なんでここで待ってる……?)
競争の勝利条件は、先に
(あるとすれば共闘の申し入れくらいだが……。ちと早すぎねえか?)
思案を巡らせはじめたところで、ヴォルフの双眸がレオンを睨みつけた。
「顔色が優れんようだな。その身体は変わらず、か」
その口調には、嘲りの色が混じっている。
級友たちから聞いた話だと、レオンは身体に宿す
しかしレオンは大して気にした風もなく、涼しげな笑顔を浮かべた。
「ああ、こればかりは天からの贈り物だからね。しかしヴォルフ……」
笑顔の質が変わる。口調とは裏腹に、なにかを見透かしたような冷徹な笑みだ。
「わざわざ待っているなんて、キミらしくないじゃないか。昼食の約束など、した記憶はないのだがね」
「……フン、愚問だな」
ヴォルフは隠す気などないと言わんばかりに、長剣を眼前に構える。
「レオン・ウル・ヴァイスラント。今この場で、貴様に決闘を申し込む」
「「『……は?』」」
思わず出た間抜け声が蒼乃と、青い鳥を介して聞こえる小里と重なった。
声量の制御が効かないというのは、なんとも厄介な話ではある。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! なんでそうなるんですかっ! 勝ちたかったら、さっさと
攻略競争のルールは、二国間の正式な会談によって決まったものだ。仮にヴォルフが決闘に勝ったところで、ノスクォーツ側の勝利とはならないだろう。
しかもこのやりとりは、小里の
「あ、ひょっとして
「……黙れ、小娘」
敢えて茶化したのだろう蒼乃の言葉を、ヴォルフの威厳に満ちた声が遮った。
「私は元より、
「なっ……⁉」
蒼乃が顔をひきつらせた。
滅多に感情を顔に出さないアイナすら、わずかに顔をしかめている。
(なるほど、ね)
思わず、苦笑いがこみ上げてきた。
今の言葉は、ある事実を物語っている。しかもヴォルフは、それを隠そうともしていない。
対するレオンは笑みを崩さぬまま、一歩前に出て口を開いた。
「おかしいと思ったんだ。いかな”大陸最強”とノスクォーツの精鋭とはいえ、我が
立て板に水を流すような言葉に、ヴォルフの獰猛な笑みが一層深くなる。
「……先駆けて立ち入り、調査や魔物の掃討をしていたわけだね。氷穴は元より、
レオンの声は紡がれる言葉に反して、激しく糾弾するものではなかった。まるでゲームでズルをしたことがバレた友人を嗜めるような、そんな声だ。
ヴォルフも悪びれるどころか、鼻を鳴らして口を開いた。
「知る必要のないことは知らんさ。
(するってえと……あいつか)
黎一は、ヴォルフの背後に控えるモルホーンを見た。
地層や
「そこまでして勝ちたいんですか……? 今のやり取り、この鳥を介してヴァイスラントの冒険者ギルドに伝わってますよ?」
「だからなんだというのだ? 私の望みはもとより決闘のみ。戦もこの余興も、すべてはそこに至るための手段にすぎぬ」
蒼乃の言葉を斬り捨てたヴォルフが、一歩前に出る。
「さあ、レオン・ウル・ヴァイスラント! 我が決闘を受けよッ!」
狼の遠吠えのごとき叫びに、呼応するように――。
赤き溶岩洞の大気が、轟と渦を巻いた。
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