焔舞う園
魔物を倒しながら、どれぐらい進んだだろうか――。
黎一たちは、氷穴の果てに築かれた巨大な表層結界の前にいた。すでに周囲に氷はなく、高まった地熱を肌で感じられる。
「ったくもうっ……! 寒いんだか暑いんだか、はっきりしてよねっ……!」
「上着にあるもうひとつの紋様を起動したまえ。耐熱仕様に変わる」
「くれぐれも上着は脱ぐなよ。一歩間違えば、服を着たまま丸焼けだ」
いそいそと上着を脱ごうとした蒼乃を、レオンとアイナが慌てて制する。レオンはともかく、変わらず貫頭衣姿のアイナが言うのだから中々に
皆がひと通りの準備が終えると、レオンが黎一の肩にいる青い鳥に視線を向けた。
「こちら現地、
『通信管制室、マリーです。ノスクォーツの部隊はすでに表層結界を突破しています。数度の戦闘があるも、要員の交代はない模様。魔物に関する問い合わせもありません』
「予想以上に速い……? あいわかった、これより
(ここからが本番、ってか)
レオンたちのやりとりを聞きながら、黎一はそびえ立つ表層結界を見上げた。普通はアーチ状の建造物に光の膜が張ってあるのみだが、ここの結界は厳めしい鉄の門扉がついている。
その瞬間――。
『ナ……ツ……シイ』
――声が、聞こえた。
(ッ⁉)
思わず、あたりを見回した。明らかにマリーや小里の声ではない。
「どしたの……?」
「いや、なんでもない。行こう」
蒼乃の言葉に頭を振って、音を立てて開く鉄扉の前に立つ。
扉の向こうは先ほどと打って変わって、見渡すばかりの灼熱地獄だった。流れる溶岩が生むわずかな光が、切り立った岩壁を照らす。その中空を、なんの素材か分からない灰色のブロックがいくつも動いている。
「うっわ……。ひょっとして、あれに乗って進め、っての?」
蒼乃の言葉に、黎一はブロックを
よく見るとブロックは、火を顕す赤い
「俺が先に進みます。ついてきてください」
言いながら、手前の崖に動いてきたブロックに飛び乗った。
皆が乗ると案の定、ブロックは同じ大きさの
『八薙くん、どうやってブロックの法則分かったの? あたし、今めっちゃ解析してたのに……』
『レイイチさん、
(せめて聞こえないように言ってくれないもんかねぇ……)
マリーの言葉に忍び笑う周囲に気づかぬふりをしながら、なおもブロックを飛び移っていく。
途中、明らかに組み合わせがないところは、小さな
「ねえ、目的の場所ってあそこかな」
幾度かブロックを乗り継いだ後、蒼乃が彼方を指さす。そこは、溶岩洞のほぼ中心だった。中空には、三角錐を逆さにした形の台座のような建造物が浮いている。今乗っているブロックの進路からして、このまま乗り換えなしで進めそうだ。
「見るからに、そのようだね。……どうやらお客さんもきたようだ」
レオンの声に右側を見れば、甲高い鳴き声とともに溶岩洞の上を羽ばたくものがある。見た目は不死鳥と言えば聞こえは良いが、鋭く尖ったくちばしと正気を感じられぬ眼は、神話の存在などではありえない。数、およそ十。
「
「だああもうっ……! 冷厳なりし吹雪の
蒼乃が、青水晶を頂く鉄紺色の
「ああんもうっ! すばしっこい……っ!」
「……
蒼乃がぼやく横で、レオンの光を宿した
「レオン殿下ッ!」
「ここは私がやる。ブロックの操作に集中したまえ」
レオンが叫ぶ傍から、攻撃をかい潜った二体が眼前に迫った。合わせるように、アイナが動く。
「――
片刃の長剣の一突きから放たれた竜巻のごとき剣気が、
「
三日月を思わせる斬り上げで、迫っていたもう一体を屠る。そのままブロックに降り立つかと思いきや、別のブロックを蹴り三角跳びの要領で残る魔物の群れへと近づいた。
(いやいや、さすがにそれはちょっと……)
内心の言葉が終わる前に、アイナの姿が消える。
「剣舞――
魔物の群れを捕らえるように、銀閃の檻が生まれた。斬り散らされたのは三体。この間、レオンが光の剣技でさらに二体を仕留めている。
それを見越していたかのように、アイナは黎一の隣にすとりと着地した。
(……そうだった。この人、こういう人だった)
「
蒼乃が放った冷気の刃が、残った
同時に、黎一たちの乗るブロックが逆三角錐の台座へとたどり着く。どうやらブロックを繋ぎ合わせて造られた場所らしい。小さなグラウンド程はあろうかという広さのわりに、遮蔽物は一切ない。
その中央に、四つの人影がある。
「……遅かったな」
衛士たちを従え堂々と立つのは、他でもない――。
ノスクォーツ国王、ヴォルフガング・レクス・アルバルプスその人だった。
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