謎めく魔性
氷柱が群れなす洞窟の闇から飛び出た四つの影は、鳥と四足獣をあべこべに足したような代物だった。
『ちょっ、なにあれっ……!』
『早く
肩先で羽ばたく青い鳥から、小里とマリーの声が聞こえる。
「
「
だがレオンに声をかけた瞬間、すでに黎一と蒼乃は迎撃の体勢に入っている。
「
「
狙った相手の
「グォラッ⁉」
「ウオォン⁉」
魔物たちは苦悶の声を上げながらも、速度を落とすことなくレオンへと突き進む。
(耐えた⁉ やるなっ!)
だが二撃目を放つ前に、通り過ぎる影たちに向けていくつもの銀閃が走った。影たちがすり抜ける瞬間、レオンとアイナが斬撃を繰り出したのだ。しかしどの影も欠けることなく、黎一と蒼乃を目がけて突進してくる。
(こいつら、あの二人の剣も潜り抜けるのか!)
黎一の知る限り、純粋な剣技だけならレオンとアイナはヴァイスラント国内で一、二を争う。それに今の魔物たちの動きは、避けることに専念しているようにも見えた。
(敢えて無視した……? なにはともあれ……!)
愛剣にふたたび風の
(タフなのはそれが理由かっ! だったら……!)
「獣頭が土、鳥頭が風だっ!
放った火の散弾を、
「ギャオオオンッ⁉」
「ピギャアッ⁉」
魔物たちの動きが、止まった。うち獣頭の二匹は弱点を突かれたせいか、露骨に消耗している。
その隙に、蒼乃が
「空に揺蕩う風精よ、赤き火を纏いて刃となれ!
「はあっ!」
蒼乃が裂帛の気合とともに繰り出した赤い斬撃が、魔物の猪に似た頭を斬り飛ばした。狼の頭を持った魔物が蒼乃に襲いかかるが、返しの一撃で同じ運命を辿る。
残りは二匹、なおも迫るニワトリ頭とワシ頭だ。いずれも、風の属性を顕す黄金の
「そいつよろしくっ!」
(へいへい、苦手科目ね!)
「
上段斬りから放った炎弾の雨が、
「
繰り出した一突きが、ワシ頭の胴を捉える。刹那の間の後――。切先から咲いた炎の花が、ワシ頭を前半身ごと焼き尽くしていた。
「……見事な、ものだね」
どこか残念そうなレオンの声が、戦いの終わりを告げた。
* * * *
謎の魔物たちを倒した後、一行はふたたび洞窟内を進んでいた。
小里の声が適度に道案内してはくれているものの、先ほどよりは頻度が少なくなっている。
「ときにコザト殿。先ほどの魔物の解析結果はどうかな?」
中衛にいるレオンの声がした。発言が少なくなったのを気にしたのだろう。
黎一の肩先にいる青い鳥が、慌てたように羽ばたきはじめる。
『へ⁉ あ、はいっ! そ、それが……』
「どうした? 死骸があったのだ。
――
大抵の生物は調査用の
『……レオン殿下、マリーです』
青い鳥から聞こえる声が、マリーのアニメ声に変わった。
『
「なんだと……?」
隣の蒼乃が、輝く目で青い鳥をチラチラ見始めた。知的好奇心を刺激された時の顔だ。
『どの魔物も、三種類以上の
たしかに戦闘の直後、青い鳥が死骸の周りを飛び回っていた。どうやら小里の
(こんなのあるんじゃ、どのみち
黎一の角度が違う悲嘆などつゆ知らず、レオンとマリーのやり取りは続く。
「つまりあの魔物は、何者かが創り出した
『はい。ノスクォーツが仕掛けてきたか、あるいは……』
「状況を確認しろ。逆に変な誤解をされてはかなわん」
『承知しました。もしあちらから何らかの申し出があった場合は、いかがしますか?』
「……内容によっては一時、作戦を中断する。あちらにもそう伝えろ」
『承知しました。しばしお待ちを』
それっきり、青い鳥は黎一の肩に止まって静かになる。小里とマリーが、ノスクォーツ向けの通信を始めたのだろう。
「もしノスクォーツでないとしたら……第三者の介入? 何者だ……?」
問いともぼやきともつかぬレオンの言葉に、答えられる者はいなかった。
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