第4話 青いドラゴン

そんな生活が約2か月続いた頃、勇者一行率いる魔王討伐隊が決戦で敗北したことがニュースに流れた。



「今からあいつの葬儀に行ってくるよ。」


喪服のレイリーが立ち寄った。



「そうか、気をつけてな。」


「第12部隊なんて遠距離での援護だったはずなのに、やっぱり決戦ともなれば、容赦ないんだな。」


レイリーは腰に下げた短剣の柄を触った。

部隊にいた時に使っていた短剣だ。

昔は戦闘用だが、今は蔦を切ったり、魔物の分厚くなりすぎたたこのようなものを削ってあげたりするのに使っている。



「"勇者じゃない方"は、勇者が死んで、何か感じるところはあるの?」


「一度も会ってなしい、話したこともないけど、やっぱり応援してたよ。赤の他人ではないというか。だからといって家族面はしないけど、でも、悲しいは悲しいよ。」


レイリーは、うさぱんとはなうさをジャングに預けて出発した。

うさぱんとはなうさはごはんを食べ、ジャングに擦り寄り、頬を舐めてくる。


悲惨な戦場で命を落とした男たちがいる一方、こちらは平和に魔物と戯れている。

ジャングは複雑な想いだった。



――


勇者と戦死者の葬儀から1週間後、魔王討伐本部の使者が来た。


「勇者様のお兄様に折り入ってお願いがあってまいりました。」


「今更、何か…?」


30歳過ぎてから旅立てとか言われても無理だ。



「我々は、ジャング様が勇者様の双子ということもあり、実は今までモニタリングをさせていただいてました。」


監視されていたのか。

少し腹が立った。



「ジャング様は魔物をうまく手懐けて共存していますよね。どうかそのお力を借してほしいのです。」


「手懐けているわけでは…。一体、私に何をさせようとしているのですか?」


「一度、本部にいらしていただき、見てもらった方が早いです。戦争を早く終わらせるためにも、まずは見学にいらしていただけませんか?」


使者の態度に嫌な予感しかしなかったが、まず見学だけは承知した。



――


魔王討伐本部は一つの村の規模だった。


闘技場に連れていかれた。

客席から戦闘を見るスタジアムになっている。


兵士たちの訓練のためかと思いきや、2頭のドラゴンがそこにいた。

赤いドラゴンは人間との戦いで傷だらけだ。

一方、青いドラゴンは一見ドラゴンだが、普段見かけない形をしていた。



「赤が野生のドラゴンで、青は人間が遺伝子操作をして作ったドラゴンです。」


遺伝子操作?

魔物にそんなことができるのか。


戦闘が始まると、早速青いドラゴンは雄叫びをあげて威嚇すると、赤いドラゴンに飛びかかった。

赤いドラゴンは避けようとするが、青いドラゴンの速さについていけず、喉元を噛まれる。

抵抗するが、青いドラゴンの噛む力が強すぎて、反撃する暇もなくそのまま息絶えた。

青いドラゴンはまた雄叫びをあげて、死んだ赤いドラゴンを踏み付けたり、尻尾を噛みちぎったりしている。

オーバーキルだ。



「なんて酷い…。」


「青いドラゴンを人間側の魔物兵器として利用したいのです。ドラゴンのように大型の魔物は、戦闘になるとレベルの高い戦闘員が何人も必要な上に、討伐に時間がかかります。同じ力をもつ魔物が対戦してくれれば、人間の負担が大分少なくなります。」


「私に、何をしろと?」


「青いドラゴンを調教してほしいのです。人間の言うことをちゃんと聞くように。」



ジャングは青いドラゴンの目を見た。

村の魔物たちの目とは全然違う。


何も見えていない。

目の前のものが何で、自分が何のためにここにいるかもわかっていない。

勝利と血の臭いに興奮しているだけ。


このドラゴンは、魔物ではなく兵器なのだ。

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