第2話 魔王討伐隊員じゃない男

俺は10人兄弟の長男だ。

家は裕福じゃなかったので、早く給料のいい仕事に着きたいと思い、兵士になった。


仲間とも仲良くなり、なんだかんだで力は強くなって行き、魔王討伐隊に抜てきされた。



魔王討伐隊は一般兵士の部隊よりも殺伐としていた。

最強クラスの魔物と戦い、勇者とともに魔王本人と戦うこともあるのだ。

呑気な部隊なわけはない。

わかってはいたが、その雰囲気についていけなかった。



ある日の戦いで、俺は仲間を庇って足を負傷。

戦力外通告を受けて除隊になった。

一般兵士で働くこともできたが、なんだか色々面倒臭くなった。

弟、妹たちもちゃんと自立したし、のんびり暮らしてもいいかな、と思えたのだ。



――


「…何?その出で立ちは…?」


ジャングは思わず笑った。



レイリーは、ウサウサを頭に一匹、両肩に一匹ずつ、左手にさらに一匹抱えていた。



「どれがうさぱんでしょうか?」


「知らないよ!」


レイリーのウサウサからのモテ具合に、ジャングは今年一番笑った。



「なんかさー、どんどんウサウサが集まって来るんだよね。うさぱんも外に出たいだろうから、採集の時に連れてってんだよ。で、色々作業してて、気づくとコイツらが俺を取り囲んでるの!村まで着いて来たからさ、とりあえず飼うかどうかは別にして、家に連れてこうかと思って。うさぱんも、たまには仲間がいた方がいいだろうし。」


どうやら左手に抱えられたのがうさぱんらしい。

ジャングは、うさぱんに皮の紐で首輪を作ってあげた。



「そっちのウサウサ、なんか鼻水すごいけど。薬あるからつける?」


「え?そんなのあるの?」


「ウサウサに似たような種類の、ペット用のやつ。多分効くと思うよ。」


ジャングは鼻水ウサウサの鼻に薬を塗った。



「よーし!じゃあコイツの名前は『はなうさ』だな。」


レイリーははなうさを抱っこする。

はなうさはレイリーの腕の中でじっとしている。



「あ、これ、薬代と言っちゃなんだけど、お酒。昨日、あいつが来たんだ。これはあいつからの手土産。一緒に呑もうぜ。」


レイリーのいう"あいつ"とは、レイリーがかばった元同僚のことだ。

一年に一回は村に寄り、酒を呑んでいく。



「じゃあ、ご相伴にあずかろうかな。」


乾杯をして、つまみのピザを頬張る。

はなうさが興味深々にピザに鼻をひくひくさせている。



「あいつ、第12部隊の副隊長になったんだって。当時、俺と同じ強さだったから、俺も続けてたら副隊長くらいにはなれたかなぁ。」


「いや、無理だろ。お前は自分から辞めたいと言えなくて、ちょっとの怪我で除隊を申し出るような奴だ。現実を受け入れろよ。」


ジャングは一杯目をすぐ飲み干し、酒をついだ。



「人の弱さをね、そんな風に言うのは良くないよ。」


「お前が、俺を『勇者じゃない方』ってあだ名で1年通したことを俺は忘れてないからな。」



そんな他愛ない話をしていると、ニュースが流れた。


『勇者一行と魔王討伐隊は魔王本拠地近くの◯◯地域に入りました。』


なんとなく会話が途切れる。



「……あいつはさ、俺に申し訳ない気持ちから毎年来てるんだよ。別にいいのに、そんなことしなくても。俺は今の生活が気に入ってるし。」


コップの氷がカランと鳴った。



「単純にお前と話したいから、ってのもあるんじゃない?事情がわかってる無関係な人って、話しやすいじゃん。」


「そうだといいんだけど。」


「……はなうさ、鼻水止まったみたいだよ。」


「ホントだ。効いてるんだな。良かったなー、はなうさ。」


レイリーははなうさに頬ずりした。

はなうさは、なすがままで鼻をひくひくさせていた。

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