勇者じゃない方!魔物のお医者さんジャング
千織
第1話 勇者じゃない方の男
俺の名はジャング。
生まれた時が一番周りに期待された。
なんと、俺は勇者の双子の兄として生まれた。
金色の眼を持つのは神の加護、勇者の証。
弟にはそれがあった。
弟は勇者確定なので、赤ん坊のうちから神殿に連れて行かれた。
一緒に暮らしたことはない。
俺は黒い眼だったから、しばらく様子を見られたが、一向に変わる気配がなく、「勇者じゃない方」と呼ばれるようになった。
格別な神の加護も戦闘の才能もなかった。
子どもの頃は「勇者じゃない方」と言われるのが嫌だったが、30歳にもなれば、周りに構われただけ良かったな、と良い思い出になっている。
今は魔道具屋として店を開いている。
ハンターから魔物の部位や魔鉱石を買取り、魔道具に加工して売る。
一人でやってるから結果的にオーダーメイド品しかできず、今はお得意さんとその紹介だけで商売をしている。
――
「今日はなかなか大量だったよ!」
幼馴染のレイリーが狩りを終えて店に来た。
小さな亀のような魔物がわさわさと瓶に入っている。
ジャングは瓶を覗いて言った。
「こんなに一気に獲れるなんて珍しいな。」
「今年の気候のせいかな?ちょっと小ぶりだけど。」
「もう少しだけ大きくなるまで育てて、甲羅をはがすよ。甲羅はまた生えてくるから一回取ったら逃す。」
そう言って、店の庭に持って行き、池に魔物を放した。
池には逃げられないように結界を貼った。
レイリーはお店のカウンターに座り、疲労回復の効果がある薬草を噛んでいた。
「甲羅がとれたら、何を作ってほしい?」
「そうだなぁ。最近この鎧もボロくなってきたから、修理か新しいのにするか。そんなところかな。」
レイリーは20代の頃、魔王討伐隊の隊員だったが、戦争で負傷し、故郷に帰ってきた。
今はジャングの専属ハンターとして、狩りと出来上がった魔道具をお客さんに届ける仕事をしている。
「今日、その鎧預かろうか?直せるかどうか見とくよ。」
「じゃあ、早速頼むわ。」
レイリーは鎧を脱いで、机の上に置いた。
「はい、今日の分のお金。」
「毎度あり。あ、あとさ、ジャングはウサウサに詳しい?」
ウサウサというのは、体長30センチくらいの草食魔物だ。
敵が近づくと毛を針に変えて身を守るか針を飛ばしてくる。
加工するなら、毛皮をとることになる。
「わかるけど。そんな珍しくない魔物がどうかしたのか?」
「最近、俺に懐いたウサウサがいてさ。まあ、飼ってみようかと思うんだけど、どうかな。」
「弱い魔物をペットにするの、今流行ってるよな。ウサウサなら大丈夫だと思うよ。でもなんで懐かれたの?」
「さあ。俺がお昼食べようとしたら、ひょこり現れて、全然逃げないんだ。頭なでれたりしてさー。で、次の日行ったらまた出てきたんだよね。なんか可愛くなっちゃって。もし次行って出てきたら、もう連れてこようかと思ってさ。」
「まあ、餌はその辺に生えてる草だし、こっちが攻撃しない限り針も出さないから他の村の人にも害はないだろう。いいと思うよ。」
――
数日後、レイリーは例のウサウサを連れて店にやって来た。
名前は『うさぱん』になった。
パンを食べていた時に出会ったウサウサだかららしい。
うさぱんは店の中をぴょんぴょん飛び跳ねながら動き回り、修理中のレイリーの鎧のにおいをくんくん嗅いでいた。
「レイリーの汗臭さが好きなのかな?」
「俺も最初はそう思ったよ。でも家だと、ほかの魔道具のにおいも嗅いでるんだな。魔道具が好きなんじゃねーのかな?」
うさぱんは鎧にぴったりくっついて、居眠りを始めた。
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