エピソード四 決戦?の日
今日は決戦の日である。
……と言っても、シズクにとっては決戦などというものではなかったのだが、相手にとっては決戦なのである。
「いいか!俺はお前みたいなインチキ霊能力探偵とは違うんだ!正々堂々と勝負しやがれ!」
と、相手-ピーター・ジェイドは言い放った。
「いや、私は探偵ではなくなんでも屋「うるさい黙れ。お前の口車には乗せられないぞ!」ピーターは鼻息荒くシズクの訂正を遮った。
「シズク様、こやつに少々痛い目にあってもらいたいのですがよろしいですか」
「いや、少々じゃ済まさないよね?抑えてダニエル」焦るシズク。
「大体、従者なんぞ従えているのが気に食わん!探偵たるもの己で前に進めなくてどうする」
「ダニエルは自ら進んで……というか私は探偵では「うるさいうるさい!!」
どうにもシズクの話を聞きたくないらしい。ダニエルが「うるさいのはお前だろう」と呟いていると、この様子を見かねた人物が声をかけた。
「あの……依頼の話なのだが」
「し、失礼しました。ではご依頼を詳しく伺います」シズクは困惑しながらもそう返した。
「私が昔買った家で怪奇現象が起きるんだ。ポルターガイスト、男の唸り声、金縛り、その他諸々……。買った時から古い家で、最初はこんなこともあるかと思う程度だったがあまりにもひどくなってな、こんな調子じゃあ売りにも出せない。どうにかならないかね」と依頼主ートレイスは言った。
「怪奇現象……、しかし何故俺だけでなくこいつにも依頼をしたのですか?俺一人で充分では」
怪奇現象という内容とトレイスの行動が不満らしいピーターは、居心地悪そうに言う。
「最初は君に依頼したんだが、その直後にこの彼の霊視について噂を聞いてね。面白そうだから、どちらがこの件を解決出来るのか見てみたくなったんだよ」
その発言に、ピーターは(金持ちの道楽はわからん)と溜息をそっとついた。
「まあ、とりあえず家に来てくれ。……そうだ!問題を解決した方には、老い先短い私の資産を分け与えようじゃないか、どうだい」
「「え」」
思いもよらない発言に、つい声を合わせた探偵となんでも屋であった。
「で、この生意気そうなのが探偵ピーター君なわけか」ウォルターは話を聞いたのか、半ば呆れたようにそう言った。その横ではエレナが「まあまあ可愛い子ね」と微笑んでいる。
「誰が生意気だ!!生意気なのはこのインチキ霊能野郎だ!」
「インチキ……野郎……! シズク様、私はこやつを許すわけにはいきません」と憤るダニエル。
「まあまあ、ダニエル……ウォルターも、ピーター君に失礼だよ」何を言われてもピーターに気を遣うシズク。
「その呼び方はやめろ、ピーターと呼べ」
「ご、ごめんピーター、私のことはシズクでいいよ。同世代なんだから仲良くしよう」
シズクは握手を求める。それに面食らったピーターは一瞬固まり、軽く咳払いをして、「馴れ合うつもりはない」と一蹴した。
「いいかシズク、俺はお前の霊能力なんて信用してない。この件は俺の頭脳で解決してみせる!」
「うん、頑張ろうね。折角私もお話をいただいたわけだし、手伝うよ」
にこやかにそう言うシズクに、またしても面食らうピーターであった。
午後。
トレイスの家にやって来た一行(ウォルターとエレナも勿論ついてきた)は、その家の古さにまず驚いた。
「なかなかの古さだな……こりゃあ、なにが出てきてもおかしくなさそうだ」ウォルターが言った。横でエレナがしがみつくのを気にしている。
「ふん。どうせ怪奇現象なんて科学的根拠さえ掴めれば解決出来る」とピーター。
「そうだといいんだけど……」
シズクはここに着いてから、家も気になるが、ピーターの異変にも引っかかっていた。
(もしかして……)
一行は依頼主不在の中、借りた鍵を使いその家へ足を踏み入れた。
ギシ、と、足の動きに伴い床が軋む。
電気は通っているものの、照明が暗かった。廊下の先が主に窓からの陽光で照らされている。
「今が午後三時三十分。唸り声が聞こえるのが午後4時頃だったよね」シズクが壁にかけられた時計を見ながら言う。
「猫の声でも聞いて勘違いしているんじゃないか?床だってこんなに音が鳴るんだ、何を聞き間違えてもおかしくない」ピーターはやる気なさげに言った。
「それでもおかしくないかもね、でも」
「でも、なんだよ」
「ピーター、君、
視えているだろう?」
「……は?なんだよ、それ」ピーターは顔をひきつらせた。
「シズク様、視えているとは?」
「こいつも霊視が出来るのか!?あんなに怪奇現象やシズクを否定していたじゃあないか!」
「ということは、やっぱりここにも"いる"のよね?」
皆が思い思いに問いかける。
「ピーター、」シズクの真っ直ぐな眼光がピーターを捕らえる。
「う……わ、わかったよ、視えてるよ俺にも!ぼんやりとだけどな!」
「やっぱり。じゃあなんで否定するの?」
「ぼんやりだし!ちっさい頃から視えてたけど、はっきりしないし、でも声は聴こえてきやがるし……、面倒なんだよ!関わりたくないんだよ!どうせ役に立たない能力だ、俺の知能で事件を解決出来ればそれでいい!」
「本当にそう思ってる?声が聴こえるだけでも、充分求められている。彼らに」
「うるさい!黙れ!俺は関わりたくないと言ってるだろ!」
「まあ、強制する権利も何も私にはないし、君が辛いのなら避ければいい。でもね、真実を捻じ曲げてはいけないよ」
シズクはそう言うと、廊下の突き当たりに進み、壁に向かって声をかけた。
「あなたが怪奇現象、主に唸り声の正体ですか?よろしければお話をさせてください」
『俺と話せるのか?変わった奴だな』
「トレイスさんがお困りです、何故そのようなことを?お聞かせ願えますか」
『……俺は、元々ここに住んでいた一家の末息子だった』霊は語り始めた。
俺はギルバート。兄が一人いて、優秀な出来た人だった。それに比べて俺は病弱で、勉強も運動もろくにできず、治療費ばかりかかる存在で、親にさえ嫌われていた。
ある日、親戚の男がやって来て、親に入れ知恵をしていった。
その後すぐ、俺は家族に殺された。薬を全部捨てられて、病が進行して、俺は命を落としたんだ。
俺の死因は、病が急に悪化して薬を摂取できずに亡くなったことになった。何故死ぬ前に医者に言わなかったのかなんて、周りには言う奴なんていなかった。街一番の金持ちに、口ごたえするような勇気は誰にもなかったんだ。
入れ知恵をした親戚の男は、俺の件で親から金を貰っていたらしい。それを元に資産家にまで登りつめて、そしてよりによって、この家を買ったんだ……!!
ギルバートは語り終えると、溜息をついて座り込んだ。
「だから、復讐したかったんですね」
シズクは優しい声で言った。ギルバートは頷き、頭を抱える。
ピーターは声が聴こえていたが、シズクとギルバートらしき影から目を逸らし、時が過ぎるのを待っていた。
「そうか、ばれてしまったか、私の過ちが」
なんでも屋の客間にて、トレイスが顔を片手で覆った。
「今は後悔していらっしゃる?」シズクが問う。
「歳をとって丸くなったのか、死を近くに感じてか、あの世でギルバートに顔向けできないと思うようになった。怪奇現象はあの子が原因なのも薄々感じていたよ。私は報いを受けなければならない」
「と、言っても今更警察は介入しないでしょう。どう報いを受けるのですか?」ピーターが腕を組みながら問うた。
「とりあえずだが、君達に渡すはずだった財産の半分は寄付させてもらうよ。難病の子供達に…、さて、あの家はどうしたものか」
少しの間、皆が考えていると、
「あの、私の思いつきなのですが」
シズクに視線が集まった。
後日。
例の家は、あまりに古かったため取り壊し、難病児のホスピスとして生まれ変わった。その資金は、寄付して残ったシズクとピーターへの報酬を全額使った。
「ギルバートとかいう奴は納得したのか?」ピーターはシズクに聞く。
「うん、トレイスさんの行いを知って、無事旅立って行ったよ。よかったねピーター」
「ふん。……俺はまだお前を認めちゃいないからな。探偵として優れているのはこの俺だ」
「だから、探偵じゃな「うるさい!」
澄み渡る空の下で、ピーターの声が響いた。
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