第6話 霊媒師の素質

 風子はもちろん、玲央もモミジも驚いていた。

 黒い霧の表情は相変わらず読み取ることができない。表情があるのかもわからないが、変わらずそこに漂っているだけだった。

「え、玲央様。なんで怪我治ってはるん?」

「モミジがやってくれたんじゃないのか」

「いや、うちはこんなすぐには…、」

「……良かった、鏡堂さん。ごめんなさい、私のせいで」

 呆気にとられる玲央とモミジ。

 そして安堵と責任から風子は泣き出してしまった。

「い、いや、おい。何で泣くんだ。風子の、……お前のせいじゃないだろ」

 明らかに慌て始める玲央と、拍車がかかったように泣き始める風子。

 モミジだけは、黒い霧を静かにじっと見つめた。


 風子が落ち着いたころ、玲央は詳細を話し始めた。

「俺は霊媒師をやってるんだ。何らかの理由で成仏できず、自我を失い悪霊となった霊を成仏へと導く仕事。こいつはモミジで、俺のサポート役のだ。こいつはいいやつだから心配はない。昨日は大きめの依頼を受けていたから、そのダメージが今日に支障をもたらした。俺の今日の失態はそんなとこだ」

「サポート役ねえ。まっ、そういうことやから。これからよろしゅう、風子」

 モミジは不満そうな顔をしてそう口を尖らせたが、風子に笑いかけた。

 美しすぎる顔立ちとは裏腹に、笑った顔は何だか幼いと風子は感じた。

「だから別に今日の怪我はお前のせいじゃない。気配を感じ取れなかった俺の落ち度だ」

 学校にいる際や下校では名前で呼ばれていたのに、いつの間にか「お前」呼びになっていることに風子は疑問を抱いたが、今はこのことに突っ込む場面ではなさそうだった。

「そんなことはないです。鏡堂さんを襲ったあの人は、誰なんですか?あと、よくわからないことも言っていたんです。たしか、えっと。……あれ、何て言ってたんだっけ」

 怖さの中でも、はっきりと聞いたはずだったが、きりがかかったように思い出せなかった。

「一瞬だけあの男の姿を見たが、面識はないやつだった。何か言っていたのか。モミジは聞いたか?」

「ん。……いや、うちもよく聞けてへんかった。あと、多分あの銀髪男に何らかの細工されて、すぐに姿現せへんくてヒヤヒヤしたんよ」

 話の内容は誰も思い出せなかった。

 黒い霧はただ静かに揺れていた。

「そうか。上にも報告して、調べてみる必要があるな。それよりも、巻き込んでしまって悪かった。危険な目に合わせた。……でも俺は、きっとお前には霊媒師の素質があると確信した。俺よりもずっと高い素質が。良かったら、俺と一緒に」

 霊媒師になってほしい、この提案から風子の人生は変わったのだ。


 

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る