第5話 紅葉の姫

 着物の女の人は、学校で視た姿のままだった。

 あの時は少し遠かったことと、視えてしまった驚きが勝ってしまっていたが、こうして間近で視てみるとその美しさは異常なほどだった。

 黒くて艶のある長い髪、真っ白な肌、赤みがかった瞳、長い睫毛、端正な顔立ちに赤い着物をまとったその姿は絵画の中の人物のようだった。

 美しさは、度を越えすぎると「異常」という感想を抱くことになるのかと、風子はこのとき初めて知った。

 長い髪と着物をふわりとなびかせ、風子の元に近づいてきた女の人は、そっと風子の頬に手を添えた。

 感触はない。その瞬間、瞬く間に景色が変わった。


「だあ~~~っ、何やその醜態は!うちが昨日あれほど言ったのに無理するからや。手当てするこっちの身にもなりや」

 景色が変わり、どこかの建物ーどうやらどこかの家の中に変わった。

 状況を飲み込むことができない中、目の前には黒い霧、玲央を起こしている着物の女の人。

 喋っているのが着物の女の人だと理解するのには少し時間がかかった。

 混乱もあったが、実際にはその見た目と喋り方のギャップによるものがほとんどだった。

「い、痛い……。……仕方ない、不意打ちだったんだ。怪我自体は大きくないが、攻撃に特殊な力が加えられていた……。モミジ、助けてくれ」

「きょ、鏡堂さん……!!大丈夫ですか!?」

 着物の女の人ーモミジに怒られながら、玲央はうっすらと目を開け、か細い声を発した。思わず風子は玲央のところにすっ飛んでいってしまう。

「大丈夫や。これくらいは軽傷やから。いつもの玲央様なら対応できた。不幸にも、昨日の疲れが響いてただけや」

 玲央の代わりにモミジが答えた。玲央は「軽傷」という言葉に力なく首を横に振り、否定している様にも見えたが。

 しかし、その数秒後には。

 なぜか玲央の怪我は跡形もなく消え去った。


 

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