第38話 妹じゃないなら付き合ってもいい
生徒会室。
この学校の生徒会は教師たちをも上回る権力をほこり、この学校のすべてを支配し、生徒たちは生徒会の意のままに動くことを余儀なくされているのだった――ということは全然なく、普通の学校の普通の生徒会である。
ただし、生徒会で役員を経験するとよほどの問題を起こさない限り一流大学への推薦が通りやすくなるので、進学を志す生徒は生徒会に入りたがるし、実際ある程度の成績と素行の良さがないと生徒会には入れないのだった。
なのに、その生徒会の役員の中からサッカー部の連中とつるんで事件を起こし、退学処分にまでなった生徒を出してしまったのは生徒会としても痛恨の極みだったらしい。
生徒会室ではアイドル顔のイケメン生徒会長、それに副会長が待っており、紅茶とケーキまで出してくれて(
「もう終わったことですし、
「そうか、そう言ってもらえると僕も助かるよ。お茶のおかわりもたくさんあるし、ゆっくりしていってくれ。申し訳ないけど、僕はまた別件で先生に呼ばれてるから職員室に行ってくるよ」
会長はそういって生徒会室を出ていく。
残されたのは武士郎と副会長だけだ。
副会長――一度、体育準備室で会話をしたことがある。
黒髪ロングストレートのすらりとした体型の少女。
気の強そうな大きな吊り目で武士郎をちらりと見、紅茶を口に運ぶ。
武士郎もとりあえずお茶を飲み終わったら
「君たちに兄妹には悪いことをしたね」
副会長がそう言った。
「いや、大丈夫ですよ、もう気にしないでください」
しかしさっき食べたケーキはうまかったなあ、地元の有名なケーキショップのお店だ、これを
ん?
「副会長、今、なんと言いました?」
「だから、山本君と、妹さんには悪いことをしたって言ったんだ」
武士郎は紅茶のカップをソーサーにおいて、副会長を見た。
「妹……」
「ん? 兄妹だろう? そうそう、体育準備室では悪かったね、山本君たちの顔までは知らなかったから、兄妹ふたりでいたところを変に怪しんだりして」
「あの……」
「なんだ?」
「どうして、俺たちが兄妹だってこと、知ってるんですか? 今は苗字も違うのに……?」
副会長は一瞬不思議そうな顔をしてから、「ああそうか、秘密にしてたのかこれ」とニコリと笑って一枚の書類を取り出す。
「これは生徒会長と私しかアクセスできない情報であるけど……。ほら、今年の四月時点での全校生徒の名前と住所の一覧。山本君と、いまは笠原さん、か、ふたり、今年の四月時点で住所同じじゃないか。ってことは兄妹でしょ、この名簿の時点だと山本
そうか、教師だけじゃなくて生徒会も俺たちのことを知っていたのか。
苗字も同じで住所も同じ、兄妹なのは一目瞭然。
で、今は妹の方だけ苗字が変わってる……ちょっと頭を使えば、どういうことかくらいすぐにわかる。
「そうそう、山本君。これは好奇心で聞くから、不愉快なら答えなくていいんだけど……。君たちは血のつながりのある兄妹ってことでいいのかい?」
副会長にそう聞かれて、武士郎は少し考える。
「そうですね、
「いいよ、誰にも言わない」
「俺が小学校六年生、
「ふーん、じゃあ別に二人で付き合っても問題ないってわけか。法的にも倫理的にも問題はないなあ。ん? ほんとにあのとき、体育準備室で怪しいことしてないよね?」
「してません!」
なんだよ、この副会長も見た目に反して恋愛脳しているなあ。
「そうか、君たちは血のつながりがない……山本君、君は
「いや、付き合ってはいませんよ、俺からしたら本当に妹ですし……」
「じゃあ、君、今付き合ってる人いるの?」
「いや、いませんってば」
「好きな人は?」
「いませんってば!」
なんだよ、クールな見た目してまじで恋愛話大好き人間かよ。
副会長は長い髪の毛をかきあげると、
「そうかそうか、君には彼女がいない、と。高校生にもなって妹と遊びまわってるってことか」
「まあ、そうですけどそんなに変ですかね?」
「いやいやすまなかった、変じゃないよ」
よくわからないけれど、副会長は少し楽しそうにそう言った。
「学生だから遊びはほどほどにしておきなよ。そうか、妹じゃないなら付き合ってもいいものな……」
まだ言ってるし。
いったい、なんだってんだ?
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