第19話 粘膜の立てる汚らしい音

 サプライズにしよう、と舞亜瑠まあるは思った。

 明日学校に来てストレートパーマになっていたら、きっと小南江さなえちゃんもびっくりするだろう。

 お兄ちゃんは?

 いままでずっとこの天然パーマだったからなあ。

 うふふ、楽しみ!

 そんなわけで舞亜瑠まあるは、詳しい事情も話さず、小南江さなえに今日の放課後はでかける、とだけ武士郎にRINEをしてもらった。


「マルちゃん、どこか行くの?」

「えへへへ、秘密―! 明日ね!」


 不思議そうに顔を傾げる小南江さなえをおいて、舞亜瑠まあるは小島美幸とともに美容室へと向かった。

 学校から電車で四駅、そこからちょっと歩いたところらしい。


「小島さんのお姉さんっていくつ?」

「えっと、あのね、今二十歳くらい……かな?」


 美幸の返答の歯切れは悪い。

 見覚えのあるゴマラーメンの店の前を通り、さらに住宅街へと進む。


「ふーん、こういうところに美容室あるんだねー」

「あの、笠原さん……」

「ん、なに……?」

「あのね、あの、やっぱり、やめにしない? 笠原さん、今のままの髪でいいよ……」

「あはは、ここまで来てそれ言うー? もー私はその気になってるんだから! お姉さんの勤めている美容室ってどこなの?」

「…………ごめんね、笠原さん……。私も、いろいろあってさ……」

「ん? なにが?」

「ここなんだけど」


 案内されたのはコンクリート製のちょっとした建物。

 建物の名前が書いてあるらしき看板にはなぜか毛布が掛けられている。

 察しの悪い舞亜瑠まあるはまだ、


「ふーん? こういうところにあるんだ?」


 とか言っている。

 美幸は舞亜瑠まあるの手首を持つと、


「ごめんね、こっちなの、本当にごめん……」


  そういいながら建物の中へと舞亜瑠まあるを引き入れた。


     ★


「あの……これは……?」


 舞亜瑠まあるは部屋の中で立ちすくんでいた。

 二段ベッドが二つの四人部屋、男たちがニヤニヤしながらタバコ(?)のようなものを吸っている。

 甘くて青臭い臭いが部屋の中に充満している。

 それが大麻の臭いだなんて、舞亜瑠まあるはもちろん知らない。


「いやー美幸、お前よくやったよ、こいつ、一年で一番かわいいからな。超楽しみ」


 男の一人が言った。

 こいつ、サッカー部のなんとかって先輩だ、顔だけは見たことある。


「あの、小島さん、これって、なに……?」


 青ざめた顔で聞く舞亜瑠まある、美幸はなにも答えずにうつむいている。


「おい、さっそくやろうぜ」

「だめだよ、こいつ、里香と宗助が来てからじゃないと。カメラで撮影しながら輪姦わすんだろ? 里香と宗助がくるのを待たないとハッパもらえなくなるぞ」

「あー、ハッパかー。じゃあしゃあないな、待つか。よし、美幸、お前でとりあえず抜くわ。脱げよ」


 言われた美幸は、うつむいたまま黙ってセーラー服を脱ぎ始める。


「え? なに? なんなの? 小島さん、これって、え? うそでしょ? うそでしょ?」

「ごめんね、笠原さん……。私も、ハッパの代金払えなくて……その代わりにこうするしかなかったの……」

「ちょ、ちょっと冗談だよね、やめて……やめて……ちょ、ちょっと……」


 美幸は下着姿になると、ベッドに横になっている男子部員のところに行く。

 そして、舞亜瑠まあるの目の間で、その身体を男子の前に差し出した。


 なにこれなにこれなにこれ現実?

 夢じゃないの?


 舞亜瑠まあるの目からぶわっと涙があふれ出てくる。

 足に力が入らなくなってその場でうずくまった。

 意味わからない、騙されてここに連れてこられたってこと、なんで?

 この人たちサッカー部?

 ここ、もしかしたらサッカー部の寮?

 私、私……。

 逃げようにもドアの前にも男子がいて逃げられない。


「声上げたら腹ぶん殴るからな」


 そんなこと言われなくても、もう恐怖で声も上げられない。

 なんで、なんで、こんなこと……?

  聞こえてくる美幸の声、そして粘膜の立てる汚らしい音を聞きたくなくて、舞亜瑠まあるは耳をふさいでぎゅっと目をつぶった。


 私も、やられちゃうの?

 うそでしょ?

 うそでしょ?

 うそでしょ?


 ――お兄ちゃん!!


 助けて!

 

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