第17話 エッチだけしちゃおう

 小南江さなえ舞亜瑠まあるの耳もとに口をよせると、ニヤニヤ顔で、


「いいじゃんいいじゃん!」


 とか言っている。


「え、そうかな……」

「アリだよ全然いける! お似合いお似合い!」

「やっぱり? やっぱり? いいよね? いいよね? えへへ」


 なんかこしょこしょ話しているなあ。

 まさかとは思うが、自分のことを品定めしているんじゃなかろうな、と武士郎は思った。

 女子ってなんか付き合いはじめとか付き合う直前くらいのときは友人に男を紹介して品評してもらうことがあるって聞いたことあるけど、まさかこれがそれじゃないだろうな。


「まあいいや、俺のおごりだからなんでも食ってくれ」


 メニューを向かい合わせに座った二人に差し出す。


「先輩ありがとうございます!」

「あざす、センパイ」


 二人で言ってメニューをのぞき込む。

 小南江さなえはなるべく安いのを選ぼうとしていたので、


「いいから好きなの頼め、どうせここのはボリュームすごいし。デザート付きでもいいぞ、三人で五千円までな」


 父親に五千円を握らされて、「元妻あいつがどうしてるかとか、聞いてきてくれ」とか言われているので高校生にしては豪遊できるのだ。

 そんなに未練たらたらなら別れなきゃよかったのに。大人の男女関係ってのはよくわからん。

 さてそんなふうにして運ばれてきたどでかいカツサンドにかぶりついていると、


「で、センパイ。センパイとマルちゃんはまだ付き合ってないんすか? でもこれから付き合う可能性はあるんすよね? ね?」


 マルちゃん? ああ、舞亜瑠まあるのことか、そうだな、そういうことを聞かれたら否定も肯定もしない、と舞亜瑠まあるとの約束だったからな。


「まあ、まあまだ付き合ってないけど、将来的にはそういうふうになることもあるかもなー」


 すると小南江さなえは「あ!」と言って俺を指さし、


「マルちゃん! やばいよ、この言い方はキープしようとしているかも! いい、ちゃんと付き合うまでは絶対身体を許しちゃだめだからね! ……あれ、まだ許してないよね?」


 聞かれた舞亜瑠まあるは顔を真っ赤にして、


「許してないよ! 馬鹿! まだだから! そういうのは、こう、先輩がいる前で話さないで!」


 俺の顔をちらちらうかがいながらそう言った。

 なにを言っているんだか。お前は俺の妹だろ?

 男ってのはなあ、妹にはなんにも感じないようにできているんだぞ?

 いや元妹だった、この感覚全然慣れないな。

 いやそりゃまあ、小学六年生になって突然できた義妹だし、血のつながりはないし、両親が離婚しちゃって今はなんのつながりもないし、よく考えたら普通に他人だけども。


「それならよかった。センパイ、マルちゃんは私の大切な友達すから大事にしてあげてください。おなしゃす。この子純粋なんで、騙そうと思えば騙せるだろうけど、そこを守ってあげてください。あの、あの、付き合えるかもーって餌だけで釣ってエッチだけしちゃおうとか、絶対私が許さないすから!」

「俺がまあ……笠原を泣かすようなことするはずないだろ。俺からも頼むよ、ちゃんと笠原を守っていてくれよな」


 小南江さなえは俺の返答に嬉しそうににっこりと笑って、


「はいっす!」


 元気よく答えた。


「ところでセンパイ、マルちゃん、わたし、ちらっと聞いたんすけど」

「なんだ?」

「なーんか、サッカー部のやつらがセンパイとマルちゃんのことあんましよく言ってないんすよねー」

「あー、こないだケンカぽいことになったからなー」

「センパイもマルちゃんも特進コースじゃないすか? 私もそうなんすけど。でもうちの学校、進学コースだけじゃなくていろいろやってるじゃないですか。サッカー部とか全国の中学からスカウトしてるっすもんね。だからあいつらって地元の生徒少なくて寮に一緒に住んでるすから、妙に結束力が高いんすよねー」


「わかる、あいつらいつもつるんでるしな」


 そうは言っても宗助だって俺と同じクラスなんだから特進コースなんだけどな。サッカー部に入って染まってしまったみたいだ。


「で、全国から集められたスポーツ推薦のやつら、なぜかうちの場合サッカー部だけやべー奴らが集まっているっていうか……」


 すでに何度か不祥事を起こしていて、そのたびごとに先生が必死でもみ消しているらしい。


「ほんと、あのサッカー寮の外部生たち、やべーと思うんで。気を付けてください」

「ああ、わかったよ」

「ところでマルちゃんとキスくらいはしたんすか!?」

「まだしてない!」

「いいすか、そういうのはちゃんと付き合ってからっすよ、私見張ってますからね、マルちゃんのこと泣かしたら許さないすから!」

「わかったわかった、ほらもっと食え」

「あざーす。ごちっすー!」


「ところで九文字くもんじってさっき神社で踊ってたけど……?」

「うっ……」

「あれ、なにしてたんだ?」

「えーっと、ですねえ……」


 口ごもる九文字くもんじ小南江さなえ

 そこに舞亜瑠まあるが口を出す。


「あのね、小南江ちゃんって……」

「うわーっストップストップ! 恥ずかしいから言わないであげて!」

「ふーん、そう? そうだね、山本先輩にも秘密にしとこうか!」


 んん?

 いったいなんだってんだ?


     ★


 その日の夜、武士郎はVtuberとしての配信はせずに、友人たちとオンライン麻雀を楽しんでいた。

 メンバーはいつもの大山田と八重樫。

 biscord(もちろん個人用アカウントだ)でボイスチャットしながらワイワイやっている。


「ポーン! ポン! チー!!」

「待て待て、それ役あるのか?」

「ローン! ホウテイドラ2! ホウテイ限定の片上がりだったんだよ!」

「ぎゃははは! それは片上がりとは言わねーよ!!」


 まあいつも通り楽しくやっていたのだが。

 そのうちサッカー部の話題になり。


「あいつら、やべーよな。なんか寮が治外法権みたいになっていて、場所も学校から遠いし、先生もほとんど来ないんだってよ。もう酒とかタバコとかあと女とかやり放題になってるらしい」


 大山田がそう言う。


「俺の父親警察官だからよー、まじで俺の父親の世話にならないといいがな。ほら、山本、こないだ少しもめてただろ? 気をつけろよ、なんかあったら俺たちに言えよ」

「おお、サンキュ。しかしサッカー部の寮か、どこにあるんだっけ?」

「寺尾町の、ほら、ゴマラーメンがうまい店あるだろ、あの裏にうちの高校の看板が出ている建物があるんだよ、そこがサッカー部の寮なんだ」


 あの辺か、駅にはそこそこ近いから交通の便はいいかもしれないけど、わりと辺鄙なところではあるな。

 まああの辺には近寄らないようにしとこう。




 

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