第15話 プリーツがヒラヒラと舞う


 ゴールデンウィークの真っただ中。

 今日はクメタコーヒーで待ち合わせだ。

 なんだかここ最近、舞亜瑠まあるとばかり遊んでいるような気もする。

 まあ大山田とか八重樫とかは部活もあるし、夜ちょろっとオンラインでゲームしたりもするけど、昼間は暇だ。

 勉強する気にもあまりならないし。


 両親の離婚で家族がバラバラになったことでモヤモヤした気分の中、外で食事するのはいい気晴らしになった。

 バラバラとはいえ、一緒に食べるのは妹じゃなくなったはずの舞亜瑠まあるなんだけど。


 さて今日もこないだと同じく三十分以上早く着いてしまった。

 三十分どころか、一時間近く早いぞ。

 なんだよ、そんなに早く家を出てきてしまうなんて、元妹とメシを食うのがそんなに楽しみだったのか俺は。

 まあしょうがない、ちょっと寄り道でもしながら行くか。

 お、あそこにあるのは神社かな?

 小さな小高い場所の上に、こじんまりとした神社があった。

 なんかお参りでもしていくか。

 連休中とはいえ、街のはしっこの小さな神社、ひっそりとしている。

 と思ったのに。

 境内のわきからなんか人の足音が聞こえるなあと思ってちょっと覗いてみると、そこで女子が制服姿で踊っていた。


「は?」


 思わず、二度見をしてしまった。

 さらさらの黒髪ショートカットの子が、こちらに背を向けて音楽もなしに一人でくねくねとなんか珍妙な踊りを踊っているのだ。

 踊っているどころじゃない、踊り狂っている。


「なんだこれ?」


 なんでこんな神社で、女の子がひとり静寂の中踊っているんだ?

 その子のローファーが砂利をこする音だけが響いている。

 待て待て、しかもあれうちの高校のセーラー服じゃないか?

 よく見ると石造りの柵の上にスマホホルダーとともにyphoneが置いてある。

 なるほど、あれでなんかの踊りの撮影をしているのか?

 音楽はワイヤレスイヤホンかなにかで流しているのだろう。


 なかなかのキレのあるダンスで踊るショートカットの少女。

 くねくねと踊って最後には自分の短いスカートをたくし上げ、yphoneのカメラに向けてお尻を見せて振り向いた。

 その瞬間、武士郎と目が合った。

 間違いなく武士郎や舞亜瑠まあると同じ高校の制服、短いスカート。リボンは一年生の赤い色。

 見覚えのない子だけど……。

 

 見る見るうちにその子の真っ白な肌の顔が真っ赤に変わっていく。

 一人で踊って動画撮影しているところを、知らない人間に見られたのだ、そりゃ恥ずかしいだろう、なんなら見てしまった武士郎もなぜだか恥ずかしい気分になる。


「ひぃっ、すみませんっ!」


 その女子はダッシュで武士郎の横を走り抜けて神社を出ていく。


「なんだありゃ……」


 呆然としていると、同じ女の子が真っ赤な顔のまままたダッシュでこちらへ走ってきた。


「え、なんだなんだ」


 襲われるのかと思ってちょっと身構える。

 恥ずかしいダンスを見られた口封じか、と思ったら、女子はまたもや武士郎の横をすりぬけ、柵の上のyphoneを取ると、またダッシュで去って行った。

 短いスカートのプリーツがヒラヒラと舞う。そこから伸びる足の白さが印象的だった。


「な、なんなんだったんだ、今の……」


     ★

 

 結局、店の前で数十分待つことになった。

 舞亜瑠まあるはyphoneをおばあちゃんに取り上げられていて、リアルタイムで連絡を取り合うことができないから、待ち合わせはめんどくさいのだ。


 武士郎はスマホに目を向けて麻雀ゲームを起動する。

 そういや今日の分のログインボーナスをまだもらっていなかった。

 ついでに三人麻雀サンマでも打つかな。

 本気で打つのは四人麻雀ヨンマだから、三人麻雀サンマはこういう時の時間つぶしによくやる。

 やり始めたら結構調子よくて、夢中になりかけた瞬間。

 いきなり、舞亜瑠まあるに顔を覗き込まれた。


「せーんぱいっ! また麻雀?」

「おおう!」


 びっくりしてのけぞる。

 いつもの舞亜瑠まあるの笑顔。

 だけど、今日はセーラー服を着ている。

 学校指定の紺色のセーラー服、かわいいので休日もそれを着て歩く生徒は少なくない。スカート丈は校則通り、今日の髪型はいつものルーズポニーテール。


「……ん? いつもより、なんかちゃんと化粧してる?」


 武士郎が言うと、舞亜瑠まあるはパッと顔を明るくして、


「わかります? 今日はばっちり決めてきたんですよ! えへへ、どうですか?」

「お、おお、うん、かわいいと思うぞ」


 まあ妹相手だしな、他意はない。

 他意はないはずなのに、なんか言われた方の妹――ではなく元妹は、ほっぺたを赤くしながら満面の笑みを浮かべる。

 うーん、まずったか、そういや今は兄妹じゃないんだった、あんまり変な言い方するとあれだ、いろいろあれだから。


 ん?


 武士郎は、いひひひひと上機嫌に笑うその舞亜瑠まあるのうしろに、もう一人セーラー服の女の子が立っているのに気が付いた。


「そっちの子は?」

「あ、そうそう! 今日はね、友達と一緒なのー! 名前だけは知ってるかな、会うのは初めてだよね、じゃない、ですよね、私のお友達の九文字くもんじ小南江さなえちゃんでーす!」


 小南江と呼ばれた子は、一瞬武士郎の顔をじっと見ると、


「ああっ!!」


 と声をあげ、武士郎も、


「おおう……」


 とつぶやく。


 さっき一人で踊っていた子じゃないか!

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