第9話 先輩かっこよかったすよ、パねえっす!
「びっくりしたー! 急に入ってこないでよお兄ちゃん!」
いつも通りの感じで軽く言う
二度見したけど、たしかに舞亜瑠だ。
オーバーサイズのパーカーにワイドパンツ。
ボーイッシュな出で立ちに見えるけど髪は学校のときより手の込んだ編み込みのポニーテールに大きくてガーリーなリボン。
我が妹ながらかわいいと武士郎は思ったけど、いやもう我が妹じゃなく他人だった、くそ、自分の中でいつまで立っても折り合いがつかない。
「お前、なんでここに!?」
「んー、えっへっへへ」
舞亜瑠は照れくさそうに笑うと、
「あのさ、私もさ、突然言われて突然引っ越しだったでしょ? うん、まあ以前から離婚するってのは聞いてたけど、あんなに急だとはね」
「は? え、前から離婚のこと、きいてたのか?」
「……やっぱり、知らなかったかー。ママは言ってないって言ってたけど、パ……いやもうパパじゃないのか、ええと、とにかくほんとに聞いてなかったんだね、じゃあほんとにびっくりしたよね、私も思ったより時期が早くてびっくりしたよ、夏くらいだと思ってた」
なんだそれ、じゃあ知らなかったのは俺だけだったのか、と武士郎は愕然とする。
「っていうか、今日はなんでここに?」
「お兄ちゃんに会いにきたにきまってんじゃーん! パパ……じゃない、元パパが車ででかけたからさーパチンコだなーと思って」
そして、「あ」と短く言って、
「山本先輩だった!」
「先輩はやめろ」
かゆいかゆい先輩呼ばわりは背中がかゆい!
「せーんぱいっ」
上目遣いでいたずらっぽく笑って言う
「こないだね、あの苅澤って女……じゃない先輩と、あと志村ってやつ……じゃない先輩」
俺を振った里香とサッカー部の宗助のことか。
「あの人たちから私を守ってくれてありがとね」
あいつらに教室で囲まれた時のことだな。
武士郎にとって、
「
武士郎がそう言うと、
「先輩、あざーす、えへへ」
ペコリと頭を下げ、さらに言う。
「先輩かっこよかったすよ、パねえっす!」
はじけるような笑顔、からかい口調でそう言った。
「なんだその口調は? ヤンキーの後輩かよ!」
妹Vtuberとしての水面みずほでも、学校での後輩としての笠原でもない、素の
もうなにがやりたいんだこいつ?
武士郎は父親と口論みたいになったというのに、
「えっへっへ、山本せーんぱいっ! あははっ! お兄ちゃん、パパ……元パパとケンカしたんでしょ、で元パパはパチンコ行ったんでしょ? あのパパの顔を見たら予想がつくよ、パパが、じゃない元パパがちょうど家から出てきたから、私隠れちゃったよ。まー私も顔を合わせるのはまだなーんとなくバツが悪いから助かったけどさー。ほーんと、男の人ってさあ……」
「なんだよ」
「えっへっへっへ。山本先輩兄ちゃんはいきなり私とママが出ていっちゃってビビッて寂しくて悲しくてやばかったんでしょ? うふふ、ま、私は実はそうでもなかったんだけどねー」
そっか、
なんだよ、くそ。
「で、お兄ちゃん、あのさー、Vとしての配信なんだけど。お願いがあるんだけど」
「そうだ、なんで昨日もおとといもbiscordに入ってこないんだよ、配信もしないしさ、ってかRINEは? yphoneは?」
「あのねー、おばあちゃんがさー。めっちゃ考えが古くてさ。高校生に携帯電話なんてはやい! とかいって取り上げられちゃった。今ママがおばあちゃんと交渉してくれてる。いまどきyphoneなしでJKやってられないよね、考えが昭和なんだよ」
「配信は?」
「あれもさ、持って行ったノーパソでやったんだけど、ホラーだったでしょ、悲鳴あげるでしょ、おばあちゃんにうるさいっておこられちった。もう厳しくてやんなるよ、あっはっはー。私を昭和のご令嬢にでも育てたいのかなー。その辺、元パパは自由にやらせてくれてよかったよねー」
「母さんも俺たちの配信に嬉々として出てたじゃないか」
「うん、問題はやっぱりおばあちゃんなんだよねー。おばあちゃん、今まであの家で一人暮らししていたから、ママ、もうこれ以上一人暮らしはさせられないとか言って。今、私のyphoneと配信の交渉してくれてるけど。いやー、厳しい厳しい。昭和どころかおばあちゃん、実は明治生まれなんじゃないの、あはは、で、ええと先輩」
「なんだよ」
「お兄ちゃんとの配信は続けたいんだよね、ママも成績落ちないならやっていいっていってるし、ってか急に離婚とかして私に気を使ってるから私がやりたいことはやらせてあげたいって言ってるし」
「で?」
「で、私考えたんだけどさ。お兄ちゃん、私をさ、」
「山本先輩の彼女にしてよ」
と言った。
あーもう!
意味わからん意味わからん!
お兄ちゃんって言ってみたり先輩って言ってみたり、そして今度は彼女だって?
「
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