第8話 探しちゃった自分

 今は、四月の下旬。

 ということはゴールデンウィーク直前ということだ。

 明日から大型連休が始まる。

 途中に平日もあるけれど、私立高校ということもあって連休になっている。

 三年生はその間受験のための講座とかやるけれど、二年生の武士郎や一年生の舞亜瑠まあるにとってはかなりの大型連休がつづくことになる。

 つまり、しばらくは学校に行くこともなくなり、今日が今月最後の登校日になる。

 武士郎はいつも通り登校し、自分の靴箱に行くと、弁当袋がおしこんであった。


 ふーん、今日はこんな感じか。


 ってことは、今日は昼休みに弁当を届けてくれるってわけじゃないんだな。

 心のどこかで、なんだかがっかりした自分がいた。

 舞亜瑠まあるに会えなくてがっかり?

 妹だったときは考えたこともない感情だった。

 なんだろうな、これ。

 なんか手紙みたいなの入ってないかと探したけどなかった。

 探しちゃった自分がちょっと恥ずかしい。

 まあとにかく、明日から連休だ。

 しばらく舞亜瑠まあるの弁当もお預けだ。


     ★


 自宅に帰る。

 さっそくbiscordを立ち上げる。


〔今日の弁当うまかったぞ〕


 とりあえずメッセージを送ってみるが、反応なし。


〔今日は配信やるのか?〕

〔ゴールデンウィーク中はどうする?〕


 反応なし。

 これ以上のメッセージの追撃をすると、なんか我ながら痛いことになりそうなのでやめておく。

 いや妹相手でなにが痛いんだ、と武士郎は考えて、そしてすぐにもう妹じゃないんだった、と思う。

 小学六年生から高校二年生までずっとお兄ちゃんやってきたのに、突然お兄ちゃんではなくなってしまった自分に慣れるまでどのくらいの時間がかかるだろうか。

 結局、その日も舞亜瑠まあるからは何の連絡もなかった。


     ★


 次の日、ゴールデンウィーク初日。

 離婚したばかりの父親になんの予定があるわけもなく、母と妹が出て言ってやけに広く感じる自宅でダラダラとすごす。

 biscordになにかメッセージがきてないかチラチラ確認するけどなにもなし。

 スマホのRINEからは連絡先ごと消えている。

 今日はなんの予定もなかったので、ゲームしたり動画を見たりしてすごすけど、なんだか頭のかたすみで舞亜瑠まあるのことを考えてしまって集中できない。

 父親にいろいろ聞きたいんだけど、話したくなさそうで、なにを聞いてものらりくらりとかわされる。


「大人にはいろいろ事情があるんだよ。そのうちお前にもわかるさ」

「わかるってなにがだよ! 結局どっちが悪くて離婚することになったんだよ?」

「いろいろあるんだ、男と女の関係ってのはお前みたいなこどもにはわからないんだ」


 家族の話なのだ、武士郎自身の話でもあるのに、こんな言い方されてむかつくにもほどがある。

 だいたい、まだ高校生の武士郎にとってはこれは男と女の関係ではない。父と母と妹の、家族の関係だ。

 そんないいかたでごまかされてやる筋合いはない。


「じゃあ、舞亜瑠まあるも父さんにとっては家族じゃなかったのかよ!」

「それは……」


 いいよどむ父親。


「なあ、舞亜瑠まあるは父さんはどう思ってたんだよ、家族だろ?」

「……家族だった……。今だって俺はそう思ってる。しかし……」


 武士郎も頭に血がのぼっていたので気が付かなかったが、父親の顔色も悪い。

 事情がわからないけど、父親もそれなりにダメージを負っているみたいだった。

 とはいえ、武士郎だって聞きたいこと知りたいことがたくさんある。

 しつこくいろいろ聞くが、結局父親はなににも答えることなく、


「ちょっと出かけてくる」


 逃げるようにして車でどこかに行った。

 っていうかパチンコに行ったんだろう、機嫌が悪くなると父親はいつもそうなのだ。

 ふざけんな、武士郎は誰もいなくなった居間でクッションをぶん投げた。

 くそ。

 頭がカッカして熱い。

 自分の部屋に戻り、けっこういい値段を出して買ったイヤホンをして好きな音楽を聴くけど、全然気持ちが収まらない。

 音楽を聴きながら、狭い部屋の中をぐるぐる歩き回る。


 なんだってんだ、家族みんなバラバラじゃないか。

 ついこないだまで、武士郎のものだった家族が。

 理不尽な力で全部解体されてもっていかれてしまった。


 だめだ、音楽なんていくら聞いても気が晴れない、武士郎はイヤホンをケースに戻すと今度はからっぽになった舞亜瑠の部屋――いや、部屋だったところのドアを勢いよく開けた。

 空っぽになった部屋を見れば、納得いってない自分自身の心を納得させられるかと思ったのだ。


 そしたら、部屋の真ん中には見慣れたパーカー姿の、少女が立っていた。

 舞亜瑠まあるだった。


「おわっ」

「きゃっ」


 二人で驚きの悲鳴をあげた。

 あれ、これ本物の舞亜瑠まあるかよ。

 

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