第31話(セシル殿下視点⑥)
いきなり目の前の従者が聞き覚えのある女達の名前を大量に読み上げてきたので、私は少なからず動揺をしてしまった。
だが私はすぐに気を取り直して目の前の従者にこう尋ねた。
「……なんだその名前は?」
「……いえ、別に? ただ、よくある女性の名前を挙げていっただけなのですが……もしかして殿下は今私が名前を挙げた女性に何か心当たりでもあるのでしょうか?」
「……いや、私はそんな名前の女は一人も知らないが……?」
「……そうでしたか。ふふ……」
私は憮然とした態度を崩す事なくそう言ってみせた。しかし目の前の従者はそんな私の態度を見て何やら小さく笑いだしてきた。
「……何なんだ貴様のその態度は? 王族である私に対して不敬だぞ?」
「あぁ、いえ、失礼しました。ですが、そうですね……少しばかり殿下に見て頂きたい物が出来たのですが……今からそれを見ていただく事は可能でしょうか?」
「……別に構わんが、一体私に何を見せるつもりだ?」
「ありがとうございます。それでは失礼して……どうぞこちらをご覧ください」
従者はそう言うと服の内ポケットから四角い紙のような物を取り出して私に差し出してきた。それはどうやら写真のようだった。
私は従者からその写真を受け取り、そしてそのままその写真に映し出されているものを確認してみた。するとその写真には……。
「ん……って、なっ!? こ、これは一体何なんだ!?」
するとその写真には、私と王都に住む“下民の女”が熱く抱擁しながら口づけをしている姿が映し出されていた。それは私が下民の女と逢瀬をしている時の写真だった。
「な、何だこれは! 盗撮じゃないか!! ふ、ふざけるな! 王族である私を盗撮するなど不敬極まりない!! 貴様がこれを撮影したのか!?」
「いえ、私ではございません。この写真は匿名で送られてきたのですよ」
「なっ!? 匿名だと!? い、一体誰だ! 誰がこのような低俗な写真を貴様宛てに送ってきたというんだ!!」
「さぁ、そこまではわかりませんが……ですが、もしかしたらお嬢様の婚約者には色々と裏があるという事を教えてくれるために、わざわざ親切な人が送ってきたのかもしれませんね? ふふ……」
「ぐっ……こ、これは没収する! 盗撮品なのだから当たり前だ!」
「えぇ、どうぞご自由に。あぁ、でも……もしかしたらなんですけど……その匿名で送られてきた写真は、まだまだ沢山残っているかもしれませんけどね……?」
「なっ!? な、なんだと!?」
「あぁ、いえ……“もしかしたら”の話ですよ。ですから殿下はお気になさらずに。おそらく写真はその一枚だけでしょうしね、ふふ……」
そう言うと目の前の従者は不気味にもう一度ふふっと笑ってきた。それは腹立たしさを通り越して一種の恐怖心を私に与えてくる笑みだった。
「……ふ、ふんっ! 貴様のせいで気分が悪くなったわ! 今日の所は一旦帰らせて貰う!」
「……はい、わかりました。それでは王宮に御帰還なされましたら、今一度ランス殿下としっかりとお話して下さりますようによろしくお願い致します……」
目の前の従者はそう言うと仰々しくも丁寧に頭を下げてきた。
「……ふん!」
しかし私はその従者の言葉を無視して颯爽と帰宅していった。ふん、今更ランスと話し合えなどと何を馬鹿な事を言っているんだあの従者は?
今更ランスと話し合った所でミヤが見つかるわけじゃないのに……そんな事もわからないだなんて本当に頭が悪すぎる従者だな。まぁでもクズのアリシアにピッタリな従者だとも言えるか。
(しかし……)
しかしあの従者が持っていた写真は私にとって確実な弱みとなってしまっている。王族である私が“下民の女”と逢瀬を楽しんでいた事が街中にバレてしまったら一大事になってしまう。
だからもしもあんな写真を街中にばら撒かれでもしたら、もしかしたら私の王族としての輝かしい人生に“少しばかり”のヒビが入ってしまうかもしれない。いや例え少しのヒビであったとしてもそんなのは絶対に許せない……!
(私の輝かしい王族の人生を……あんなクズ女の従者如きに潰される訳にはいかない……!)
そこで私は少し思案した。あの従者は“もしかしたら”このような写真は他にも沢山あるかもしれないと言っていた。
おそらくあの口ぶりからしてそれは本当の事なんだろう。きっとあの屋敷の何処かに私の逢瀬の写真が何枚かは保管されているのだろう。
(いやしかし……先ほど屋敷の中を捜索した時には、そのような写真なんて一枚も発見出来なかったが……?)
という事は、もしかしたら私の逢瀬の写真は屋敷の何処か秘密の場所にでもひっそりと隠しているのかもしれないな。しかし、そのような屋敷の中に隠されてしまっている写真を私が見つけ出せる方法などあるのだろうか……?
(……いや、そうか)
その時、私は発想を逆転させてみた。つまり屋敷の何処かに隠されている写真を見つける方法を考えるのではなく、その写真を街中にばら撒かれない方法を考えていけば良いのだ。という事で私は……。
(よし、あの屋敷を丸ごと燃やそう)
という事で私はあのクズ女が暮らしていた屋敷を丸ごと燃やすと決めた。元々私はクズ女がこの王都にいた痕跡を全て消してやりたいと思っていたのでちょうど良かった。
それにあの屋敷の中にミヤがいない事は判明したしミヤの痕跡なども一切なかった。だからあの屋敷を丸ごと燃やした所でミヤに繋がる手がかりは一切出るわけもないのだから、つまりは全てを燃やし尽くした所で私にとって何ら不都合は生じないという事だ。
(……あぁそうだ、せっかくだしあの不愉快な従者にも一緒に燃え死んで貰おう)
私はついでにあの従者も一緒に燃やす事に決めた。何故ならあの従者は私の痴態の写真を見てしまっているからだ。
私が下民の女と逢瀬を楽しんでいる事を知られているのは非常に不味い。もうそれだけで私にとっては致命的な弱点となり得る男になってしまっているので、口を封じるなら早いに越した事はない。
という事で私はあのクズ女が住んでいた屋敷を燃やす時についでにあの男も一緒に燃やす事にした。
(となると……屋敷を燃やすのは皆が寝静まっている深夜が良いだろうな)
あの従者が寝ている隙に火の手を上げて屋敷を全部燃やし尽くす。それで証拠の写真と証人になり得る従者をこの世から消せば……ふふ、また私の輝かしい王族の人生が元に戻るという事だ。
そしてこれで私はまた何の不安もなく最愛のミヤを探す事に全力を出す事が出来るだろうな。
という事で私は王宮へ戻った後すぐに、あのクズ女が長年住んでいたあの屋敷とその従者をまとめて燃やし尽くす計画を立て始めていった。
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