第30話(セシル殿下視点⑤)

「……はぁ、全く、貴様はあの女がどれほどの大罪を犯しているのか全くわかっていないようだな。ふん、まぁいい。アリシアは既にこの屋敷には居ないとの事だが、しかし貴様が我々に嘘をついている可能性もある! なので我々は今からこの屋敷内を徹底的に調査させて貰うからな! 拒否権は一切ないものと思え!」

「……はぁ、わかりました。どうぞお好きなように」


 私は目の前の従者にそう伝えたのだが、しかしその従者は何とも間の抜けた態度でそう返答してきた。


(コイツ……まるであのクズ女に態度がそっくりだな……)


 その従者の態度は私が忌み嫌うクズ女のアリシアとまるでそっくりだった。ふん、どうせド田舎のアルフォス領出身の者は皆このようなクズばっかりなんだろうな。


「ふん、それでは今から屋敷内の調査を行う! 皆の者、徹底的に探し出せ!」

「「はっ!」」


 そう言って私は引き連れてきた数十名の兵士達に指示を出し、そのまま全員で屋敷の中へと入って行った。


(おそらくこの屋敷の中にミヤがいるはずだ……待っていてくれミヤ……!)


 という事で私は急いでミヤを救うべく屋敷の中を隅々まで調査を開始していった。


◇◇◇◇


 それから数時間が経過した。


「何故だ……何故……居ないんだ……」


 私達は屋敷の中を隅々まで探してみたが、屋敷の中には奇妙な機械が沢山置いてあるだけで人の気配は全くなかった。


 そして私の予想に反してミヤがこの屋敷に居たという形跡も何一つとして出なかった。アリシアがミヤの事を監禁しているはずなのに……一体何故なんだ……。


「いや何故と言われましても……ですからアリシアお嬢様は既にアルフォス領へと――」

「いや違う! あんなクズ女の事はもうどうでもいいんだ! ミヤだ……ミヤを探しているんだ! 私は最愛の女性であるミヤの事を探しているんだよ!」

「……はい?」


 私がそう叫ぶと目の前の従者はキョトンとした顔をしながら私の事を見てきた。


「ふん、何て白々しい……もうわかっているんだ! クズ女のアリシアがミヤの事を嫉妬して襲った事なんて既にわかっているんだ! だからこの屋敷の中にミヤがいるはずなのに……それなのに何故ミヤはこの屋敷にいないんだ!!」

「は……はい?」

「……はっ、そうか! わかったぞ!! アリシアはアルフォス領に帰ったといっていたが、ミヤの事も一緒にアルフォス領へ連れて行ったんだな!! ふ、ふざけるな! それは完全なる拉致じゃないか!! それにヤマト国の者を拉致監禁するなど重罪だぞ!! これは今すぐにでもアリシアの事を凶悪な犯罪者として全国的に指名手配をせねばなるまい!」

「え、えぇっと……いやですが私もランス殿下にミヤ様の話は聞きましたが、ランス殿下はミヤ様はもう既にヤマト国に帰国なされたと仰っておりましたよ?」


 私はアリシアの事を全国的に指名手配にすると高らかに宣言したのだが……しかし目の前の従者はまるで私を諭すかのような小生意気な態度でそんな事を言ってきた。そしてその従者の態度はクズ女のアリシアとあまりにも瓜二つでとても腹立たしい。


「……ですから、お嬢様の事を疑う前に一旦ランス殿下に話をじっくりと伺ってみるのが賢明かと思うのですが、如何でしょうか?」

「ふん、何を馬鹿な! 確かにランスがそのような事を私に言ってきたのは覚えている。だがしかし! 私の事を深く愛してくれているミヤが、私に何も言わずに故郷に帰るなんて事は絶対にしないんだ! だからおそらくミヤは……ランスに帰国する事を伝えた後すぐにあのクズ女に襲われたんだ! だからミヤは私に報告する事が出来なかったんだ!! ミヤは私に帰国する事を伝える前にあのクズ女に襲われてしまったのだからな!」

「は、はぁ……なるほど?」


 私が理路整然とした説明をしてやったというのに、目の前の従者は先ほどから何も変わらずキョトンとした表情をしながら私の話を聞いていた。


(はぁ全く……学がない男と話すのは非常に疲れるな……)


 どうやらこの従者は、クズ女のアリシアのせいでこの国にどれ程の迷惑がかかってるのかというのをちっとも理解してないようだ。所詮は主人がクズなら従者もクズというか……。


「……おい、貴様! これがどれほどの罪かわかっているのか!? あのクズ女は十年以上も前から重罪とされているヤマト国出身の者を……しかも私の婚約者となるはずの女性を拉致監禁したんだぞ!! これはもう今すぐにでも見つけて即刻処刑にかけなければならない程の大罪なんだぞ!!」

「……なるほど、殿下の怒っている理由は十分に伝わりました。それほどまでに殿下はミヤ様の事を深く愛していらしゃったのですね。いや、ですが……確か殿下はミヤ様以外にも深く愛していらっしゃる女性が沢山いたのではなかったでしょうか?」

「……どういう事だ?」

「……おや、ひょっとして殿下は自分の愛していらっしゃる女性の事を全てお忘れですか? そうですね、それでしたら……」


 私は怪訝な目つきをしながらその従者の事をギロっと睨みつけていったのだが、しかしその従者は何食わぬ顔でとある女達の名前を次々と挙げていきだした。


「マリア様……ソシエ様……ベル様……ジェシカ様……アン様……ユリア様……ステラ様……」

「っ……!?」


 私はその従者の言葉を聞いて一瞬で固まってしまった。な、何故この男がその女達の名前を知っているんだ……!?

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