第27話(過去編⑤)

 それから数日が経ち、ついに今日はサクヤの誕生日だ。そして今日はこのあとにサクヤと待ち合わせをしている。


 でもその待ち合わせの前に私はサクヤへのプレゼントを買うために街中へと繰り出していた。だけど……。


「はぁ……足りないわ……」


 私はため息をつきながら自分の財布を取り出して中に入っているお金を確認してみた。


 サクヤはここしばらくの間は毎日のように冒険者ギルドで剣の特訓を行っていた。だから私はそんな頑張っているサクヤのために“銀の短剣”を買ってあげようと思ったのだけど……でもそれを購入するための予算は今日までに貯める事は出来なかった。やっぱり簡単なお手伝いで貰えるお小遣いだけでは期間内には間に合わなかった。


 もう途中で父親にお金の相談をしてしまおうかなって思ったりもしたんだけど……でもやっぱりサクヤにサプライズでプレゼントをしたいという気持ちが強かったので、結局父に相談は最後までしなかった。


「はぁ……結構頑張ったんだけどな……」


 私はため息をつきながらトボトボと街中を歩いていると、いつの間にか私は街中にある大きな武器屋の前にまで来てしまっていた。どうやら無意識にここまで来てしまったようだ。


「まぁ……少しだけ覗いてみようかしらね……」


 銀の短剣は買える程のお金は持ってないけど……でもとりあえず私は武器屋の中に入ってみる事にした。


「いらっしゃい、何かご入り用かい?」

「あ、はい、えっと、とりあえず商品をグルっと見渡して来てもいいですか?」

「ん? あぁ、全然いいよ、ゆっくりと見ていきなよ」


 私はそう言ってから店の中をグルリと歩いて行った。そして短剣が置かれているコーナーで私は一旦立ち止まり、目の前に置かれている銀の短剣の値段をもう一度見てみる事にした。


「……はぁ……」


 何度も見た所で短剣の値段は変わるわけもなく、私はまた深いため息をついてしまった。


「うん? どうしたんだい?」

「あ、い、いえ……すいません……あ、あはは」


 私が深くため息をついた所をちょうど店主さんに見られてしまったようだ。私は恥ずかしくなってしまい、とりあえず笑って誤魔化すことにした。


(この銀の短剣ならサクヤにも使いやすそうだと思ったんだけどなぁ……)


 目の前に置かれている銀の短剣は形状が小ぶりなサイズなので、まだまだ背の低いサクヤにもこれなら扱いやすいだろうと思った。それに材質も上質な銀をふんだんに使った短剣なので、刃毀れはこぼれもしにくいという口コミもバッチリと聞いていた。


 だから手入れを忘れずにしっかりと行っていけば、かなり長い間は愛用し続ける事の出来る良質な短剣というわけだ。


 だけどやっぱりその分、値段がそれなりに高いんだ。他の短剣と比べても値段は倍以上はしてしまう。だから本当はサクヤの誕生日プレゼントにこの銀の短剣を買ってあげたかったけど……でも流石にこれは諦めるしかなかった。


「うーん……って、あれ?」


 私はそのまま店の中の物色を続けていると、今度はとある短剣に目に留まった。それは……。


「……鋼の短剣……?」


 それは商品棚に“鋼の短剣”と書かれている短剣だった。先ほどの銀の短剣と似た形状の小ぶりなサイズで、値段も今の私が持っている全財産でちょうど買えるお手頃な価格だった。


 でも価格が安いという事は……その代わりに耐久性や切れ味などは先ほどの銀の短剣と比べたら落ちてしまうという事なんだとは思う。


「うーん……」


 私は腕を組みながら唸り声をあげていた。この鋼の短剣を買ったとしても、耐久性や切れ味などが良くなかったら……これを買ったとしてもサクヤにはすぐに不必要になると思う。


 でもサクヤはまだ冒険者ギルドで剣の使い方を練習を始めたばかりの新人従者なので、自分だけの武器なんてまだ一つも所持していないはずだ。


 そんなサクヤに今すぐ高価な武器を渡したとしても、上手く使いこなす事が出来ず、手入れも全然せずにすぐにボロボロにしてしまうかもしれない。


(それなら……この鋼の短剣をプレゼントしてあげて、この短剣がボロボロになるまで練習用に使って貰うというのも良いかもしれないわね)


 私はそう結論づけて早速武器屋の店主を呼んでいった。


「すいません、この鋼の短剣を一つ頂きたいんですが……」

「はいよ……ってこれ、戦闘用の短剣だけどいいのかい? お嬢ちゃんが使うのかい?」

「あ、いえ、これは私用ではなくて、私の連れに渡す武器ですので大丈夫です」

「あぁ、そうなのかい? ってことは……はは、ひょっとしてお嬢ちゃんからどっかの男の子へのプレゼントってことかい?」

「え? え、えぇっと……はい、まぁ一応ですけど……あ、これお代です……」


 店主にそう言われた私は少しだけ恥ずかしくなってしまった。そして私は顔を赤くしながら短剣の代金を店主に支払っていった。


「はいよ、お代はちょうどだな。あぁ、そういえばちょうど今は剣の鞘に刻印を入れるサービスもやってるんだけど、よかったら嬢ちゃんもやっていくかい?」

「え? 刻印……ですか?」

「あぁ、せっかくのプレゼントなんだし良かったらどうだい? もちろんサービスだから追加料金とかも取らないぜ?」


 店主は笑みを浮かべながらそういうサービスがあるという事を私に伝えてきてくれた。でも刻印か……それは確かに、ちょっとプレゼントっぽくて良いかもしれないわね。


「はい、それじゃあ、刻印のサービスもお願いできますか?」

「あぁ、わかった。それじゃあ刻印は何て入れようか?」

「えぇっと……それじゃあ、“Sakuya”でお願いします」


 私は店主にそう伝えてサクヤの名前の刻印を剣の鞘に入れて貰う事にした。すると店主は綺麗な手さばきで剣の鞘に刻印を一つずつ丁寧に打ち込んでいってくれた。


「……はいよ、これで完成だ。はは、嬢ちゃんのプレゼントを喜んでくれるといいな!」

「はい、ありがとうございます!」


 そして刻印を入れて貰った鋼の短剣を包みに入れてもらい、そのまま私はそれを受け取った。


「さて……それじゃあサクヤの所に行かなくっちゃ!」


 という事で私はその武器屋から出ていき、そのままサクヤが待っている待ち合わせ場所に早足で向かった。

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