第28話(過去編⑥)
待ち合わせ場所に到着すると、そこにはサクヤが既に待っていた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ……って、アリア、何持ってるの?」
サクヤはこちらに振り返った瞬間、私が手に持っている包みにすぐ気が付いて指摘してきた。
「ふふ、サクヤへの誕生日プレゼントよ!」
「え……えっ!? ……って、あ、そういえば今日って僕の誕生日だっけ」
「なによ? そんなことも忘れてたの?」
「あ、あはは……最近は剣術とか体術の特訓が忙しくて自分の事なんてすっかり忘れちゃってたよ」
「全くもう、自分にとって大切な日なんだから忘れないでよね。ふふ、それじゃあ、はいこれ」
私はそう言いながらサクヤにプレゼントの小包を渡した。
「ありがとう、アリア! 早速開けてもいいの?」
「えぇ、もちろん開けて貰って構わないわ。誕生日おめでとう、サクヤ」
「うん、ありがと……って、えっ……? これって……」
サクヤは小包みを開けてみると、すぐにビックリしたような表情でこちらを見てきた。でもそれからすぐにサクヤは嬉しそうな表情をしながら小包の中に入っていた短剣を取り出してきた。
「気にいったかしら?」
「うん、もちろんだよ! で、でも、一体どうやってこんな短剣を買ったの……?」
そう言ってサクヤは不思議そうな顔をしながらこちらを見つめてきた。そりゃそうだ。だって私は貴族令嬢とは言ってもそこまで沢山のお小遣いを貰っていたわけじゃない。貴族だからと言っても無駄遣いをせずに慎ましく生活する事も貴族としての矜持だと私は両親から教わってきていたから。
そしてその矜持を私が守っている事もサクヤはもちろん知っている。だからサクヤはこんな鋼の短剣を私が買えたという事にビックリとしているんだろうな。
(でも、本当の事を言うのは……ちょっと恥ずかしいわね……)
それに……何故かはわからなかったんだけど、でも私は泥や薬草の液体で汚れてしまっている自分の手をサクヤには見せたくないと思ったので……私は自分の手を後ろに隠しながら、そのままサクヤに向かって大きく笑いながら喋りだしていった。
「……ふふん、私はサクヤと違ってやりくりが上手だからね! だからこれくらいのお金を貯めるのなんて簡単なのよ!」
「いやいやそんな簡単な事じゃないでしょ! あはは、アリアは本当に凄いね!」
「ふふ、そんなの当たり前じゃない、だって私は由緒あるレイドレッド家の娘なんだから」
「はは、うん、本当にアリアは凄いなぁ……でも、本当に……本当にありがとね、アリア」
「……え?」
―― ぎゅっ……
サクヤはそう言うと、唐突に見せないようにしていた私の手をいきなり掴み……そしてそのままぎゅっと握りしめてくれた。
「本当にありがとうね……アリア」
「えっ……あ、な、なによ……? ど、どうしたのサクヤ……?」
私はいきなりサクヤに手を握りしめられるとは思ってなかったので、私は恥ずかしさのあまり顔をどんどんと赤くしていってしまった。でもこのサクヤの反応はもしかして……。
「……も、もしかして……知ってたの?」
「ううん。でも何かやってるのは知ってたよ」
「そ、そっか……ま、まぁ、そうよね、あはは……」
どうやら私がここしばらく一人でコソコソと父のお手伝いをしていたのはサクヤにバレていたようだ。まぁ普通に考えたら屋敷の庭先で土を耕してたり、屋敷の中でポーション作成をしてたりしてた時点で全然コソコソとなんてしてなかったしね……。
「でも、僕のために何かをしてたというのは知らなかったからよ。普通に何か自分の欲しい物を買うために頑張ってるのかなって思ってたんだから。だから本当にビックリしちゃったよ……本当に嬉しいよ、アリア」
「サクヤ……うん、サクヤにそこまで喜んで貰えたなら、私も頑張った甲斐があるわ。ねぇ、それじゃあ早速さ、その短剣を腰に差してみたらどうかしら?」
「う、うん、じゃあ……」
私がそう言うと早速サクヤは自分の腰に鋼の短剣を装備してみせた。思った通りサイズも小ぶりだから今のサクヤの身長にはちょうど良さそうだ。
「うん、とても似合ってるわよ、サクヤ! ふふ、なんだか一人前の従者に一歩近づいたわね」
「そ、そうかな! うん、本当にありがとうね、アリア! 一生の宝物にするよ!」
「ふふ、何言ってるのよサクヤ。あなたはこれからすぐに立派な従者になっていくんだから、そんな安物の短剣を宝物になんかしてちゃ駄目でしょ。もっと立派な従者に相応しい上質な武器を身に付けなさいよ」
私はふふっと笑いながらそう言うと、サクヤは顔を横に大きく振りながらこう言ってきた。
「ううん、そんな事は絶対にないよ! たとえ安物の短剣だとしても……僕にとってはこの短剣はどんな武器よりも大切だよ! だってアリアが僕のために買ってくれたプレゼントなんだからさ!」
「そ、そう……? ま、まぁ……そこまで喜んでくれたなら私も嬉しいわ」
「うん! 本当に……本当にありがとう! ずっと大切にするよ、アリア!」
そう言うとサクヤは満面の笑みを私に浮かべてくれた。そんなサクヤの笑顔につられて私も顔をほころばせて笑った。
「ふふ、それじゃあ……これからも頑張って早く一人前の従者になりなさいよ」
「うん、もちろん! 早く一人前の従者になって、そしてアリアの事をいつでも守ってあげられるように頑張るよ!」
「ふふ、そっか……うん、楽しみにしてるわね、サクヤ」
「うん!」
こうして私達はお互いに笑い合いながら、そのまま二人で仲良くレイドレッド家の屋敷へと帰って行ったのであった……。
◇◇◇◇
「……ん……あ、れ……」
私はアルフォス領へ向かっている馬車の中で目を覚ました。どうやら眠ってしまっていたようだ。何だか懐かしい夢を見ていた気がするけど……でも何の夢を見ていたかは忘れてしまった。
「ん、んんっ……ふぅ……」
私は背伸びをしながら馬車の窓から外を見てみたが、外には森が広がっていた。どうやらアルフォス領に到着するにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「仕方ない……それじゃあ本でも読んで時間を潰そうかしらね」
私はそう言いながら鞄の中に入れていた薬学の本と、それを読むためのメガネを取り出していった。
「……あ」
その時、ふとさっき見ていた夢を私は思い出した。それはサクヤから初めてのプレゼントを貰った時の夢だった。
「……ふふ、そっか、あれってもう八年以上も前の出来事なのね……」
私はそう呟きながら、ちょうど八年前にサクヤから貰ったこのメガネをかけていった。私は八年間しっかりと手入れをし続けてきたので、今まで一度も壊す事なくこのメガネをずっと大切に使ってきていた。
そしてそんなサクヤから貰ったこのメガネは……今の私にとって一番の大切な宝物となっていた。
「ちゃんと無事でいてね、サクヤ……」
私はそんな“一番大切な宝物”のメガネを手で触れながら、この宝物を私に送ってくれた“一番大切な従者”の事を思い出していった。
そして願わくばその“一番大切な従者”と笑顔で再開出来る日が早く来る事を祈りながらも、私はそのまま馬車に揺られ続けて行った。
(間章:終)
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