第25話(過去編③)

「……でも、こんな高いメガネを買っちゃって本当に大丈夫だったの? というかこれお金足りなかったんじゃないの?」


 サクヤもレイドレッド家で生活をしているので、ある程度の衣食住は無償で確保されている。


 だからある程度は高い買い物をしても大丈夫だとは言えるけど……でも多分このメガネは確実にサクヤの初任給よりもずっと高いはずだ。それなのにどうしてサクヤはこの高級メガネを買う事が出来たんだろう?


「えっ……!? あ、あはは……それはまぁ、えぇっと……」

「……アナタ、まだ私に秘密にしてる事あるの……?」


 サクヤは何か焦ったような態度を取ってきたので、私は怪訝そうな顔でサクヤの事をジロっと睨んでいった。


「い、いや、そうじゃないんだけど、まぁちょっとだけ……旦那様にお願いして近隣に生息している魔物退治のお手伝いをさせて貰ってたんだ。そしてその分の追加報酬を給料に上乗せしてもらったんだよ」

「は……はぁっ!? アナタ私に黙って一体何してるのよ!」

「い、いや……でも全然僕は危ない事は何もしてないよ? 魔物と戦うのは兵隊さんだしさ。僕は道中の荷物運びとか近隣の住人の避難の先導役とかをしてただけだからそんな命の危険があるような仕事は何もしてないよ」

「そ、そんなの当たり前じゃないの! もしサクヤが魔物と戦うような危険な仕事を引き受けてたりしたら本気で怒ってるわよ……アナタが傷つく姿なんて見たくないのよ……もう……本当に……心配させないでよ……」

「……ごめん、アリア……」


 私はサクヤの事を心配しながらも本気で注意していった。サクヤが傷つくところなんてもう見たくないのだから……。


「……でもさ、僕だって心配なんだよ」

「……え?」


 私はサクヤが心配だと言うと、そんなサクヤも私の事が心配だとそう言ってきた。


「アリアは困っている人達のために毎日新しい薬作りのために凄い時間をかけて勉強をしている事は知ってるよ。でもそのせいでどんどんと顔色が悪くなっていってるの知ってるし、それに視力だって少しずつ落ちていってるのも知ってるよ」

「そ、それは……まぁ……」

「アリアはさっき僕にこう言ったよね? “アナタが傷つく姿なんて見たくないのよ”って。でもさ……僕だって嫌なんだよ……アリアが身体を壊しちゃうのはさ……」

「サクヤ……」


 そういうサクヤの表情はとても悲しそうな顔だった。そしてそれは本当に私の事を心配してくれているようだった。


「もちろんアリアが沢山勉強している理由もわかってるよ。レイドレッド家は薬学や医療に精通している家だし、それに貴族として困っている人々を救うのが一番の役目だって、いつもアリアは言ってるからね。でもさ……そのせいで毎日勉強ばっかりでアリアが身体を壊しちゃったりしたらさ……僕だって本当に悲しくなるよ……」

「……サクヤ……」

「だからこのメガネをさ……僕からのお守りだと思っておいてよ。アリアが身体を壊さないようにーって、たっぷりとこのメガネに祈りを込めといたからさ。だからさ……本当に身体を壊したりしないでね、アリア……」


 サクヤにそう強く説得されてしまい……もう私にはサクヤの無茶な行動を反対する事なんて出来なくなってしまった。


「……はぁ、わかったわよ……ありがとね、サクヤ。それじゃあこのメガネはアナタの代わりだと思って大事に使わせて貰うわ。それと……身体を壊したりだってもちろんしないようにするわよ」

「アリア……」

「ふふ、だからそんな悲しい顔なんかしないでよ。あ、それじゃあ早速このメガネをかけてみても良いかしら?」

「う、うん! どうぞどうぞ!」


 私はそう言ってサクヤから貰った一点物のメガネを身に付けてみた。メガネの度数はちゃんと私にあっていた。うん、これなら本を読む時にとても重宝しそうだ。でも……。


「……うーん、でもこのメガネ……私にはちょっと大人っぽすぎるデザインじゃないかしら?」

「ううん、そんな事ないよ! 綺麗なアリアにとっても似合ってるよ! 本当に綺麗だよ!」

「そ、そう……? それなら、まぁいいのだけど……ふふ」


 私はサクヤにそう褒められた事が何だかとても嬉しくなっていき、つい私は顔をほころばせてしまった。


 さっきまではサクヤの無茶な行動に何度も腹を立てていた自分もいたのだけど……でも、それよりも、サクヤが私の事をとても大切に思ってくれているという事が知れてとても嬉しかった。


(あ、そういえば……)


 その時にふと私はとある事に気が付いた。それは今からちょうど一週間後がサクヤと初めて出会った日だという事に。そしてその日は……サクヤの誕生日でもあるんだ。


「……」

「……ん? どうしたのアリア?」

「……え? あ、あぁいや……何でもないわ!」

「そ、そう? それならまぁいいんだけど」


 サクヤはボーっとしていた私の事を見ながらそんな事を尋ねてきたので、私は慌てながらもはぐらかした。


 でも私はその後も自分の顔に付けているメガネにそっと触れながらとある事を考えだしていた。これはサクヤが私のためにプレゼントしてくれた一点物の高級なメガネだ。そしてそんなプレゼントをくれたサクヤの誕生日がもうすぐやって来るんだ。


(……しょうがない、私も頑張るかな、ふふ……)


 という事で私はその日のうちにとある事を決心したのであった。

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