間章
第23話(過去編①)
「……すぅ……すぅ……」
私は大きな馬車に揺られながら故郷のアルフォス領へと帰っている途中だった。馬車の中に備え付けられているソファは座り心地の良い高級素材で出来ているようで、私はそのソファに横たわりながら寝息を立てながらぐっすりと眠ってしまっていた。
(……サク、ヤ……そんな無駄遣いをしちゃ……駄目じゃ、ないの……)
「すぅ……すぅ……ふふ……」
私は気持ちよさそうに寝息を立てながらぐっすりと眠っていると、ふと私はとある夢を見だしていた。それは今から8年近く前の……まだまだ子供だった私とサクヤのとある日の思い出の記憶だ……。
◇◇◇◇
「だから、自分のためにお金を使いなさいって!」
「嫌だよ! 僕はアリアのために使いたいって言ってるんだから別にいいじゃん!」
「いや何でよっ!? 私は別にいいって言ってるじゃない! 初めてのお給料なんだから自分の欲しい物を買いなさいよ!」
「いやだから! 初めての給料なんだからこそアリアのために使いたいって言ってるんじゃん!!」
この日、私はアルフォス領にある小さな雑貨で小さな男の子と大喧嘩をしていた。
私の名前はアリシア、このアルフォス領を統治しているレイドレッド家の娘で、年齢は12歳だ。仲の良い人からは親しみを込めてアリアと呼ばれている。
そして今私と大喧嘩をしている男の子の名前はサクヤという11歳の男の子だ。サクヤは今から二年近く前にこのアルフォス領で倒れている所を私が発見して保護した少年で、つい最近レイドレッド家の従者として雇われた。
そして今日はそんな従者になりたてのサクヤに初めての給料が支払われた日なのだが……。
「何言ってるのよ! それはアナタが一生懸命に働いて稼いだお金なのよ! だから私なんかのためになんて使わないで自分のために使いなさい! ほら、美味しいご飯を食べたり、欲しい服を買ったりとか、色々と使い道があるでしょ?」
「そりゃあお金の使い道なんて幾らでもあるだろうけど……でも今回のお金は僕が生まれて初めて自分で稼いだお金なんだよ! だからこそ一番最初に使うお金の使い道は命の恩人でもあるアリアのために使いたいって思うのは人として当然でしょ!」
「そんなの気にしないでいいわよ! 初めて自分で稼いだお金だからこそ自分のために使った方が良いでしょ!」
という事で私はサクヤに誘われて小さな雑貨屋さんに足を運んでみたんだけど、その中で私たちは大喧嘩をしてしまっていた。
そしてその大喧嘩の理由は凄く単純でサクヤの初給料の使い道について大喧嘩していたんだ。初給料を私のために使いたいと言ってくるサクヤと、自分のために使えと言っている私による大喧嘩だった。
いや、もしかしたらそんなの、どっちにも使えばいいじゃないかって思うかもしれないけど……でも子供に与える初給料なんてそんなに多く貰えるわけではない。その事を私は知っていたからこそサクヤには自分のために使えと言ってあげてるのに……。
それにもしかしたらサクヤは将来生まれ故郷であるヤマト国に帰りたいと思っているかもしれない。もしそうだとしたらいつか故郷に帰るためにも今の内からしっかりと貯金をしていかないといけないだろう。
だからこそ私なんかのために貴重なお給料を使うなんてことは絶対にしない方が良いに決まっている。それなのにサクヤも一歩も引かずに大喧嘩にまで発展してしまったというわけだ。
「サクヤはお金の価値を全然理解していないのよ! だから私のために使おうとしてしまっているんだわ! もっと良く考えてからお金を使うべきなのよ!」
「いやもちろんそんなの理解してるに決まってるじゃないか! それを理解した上で僕はアリアのために使いたいって言ってるんだよ!」
「そんなの良いから自分のために使いなさいよ!」
「だからアリアのために使うって言ってるじゃん!」
「わからずや!」
「そっちこそ!」
「「ふんっ!!」」
という事でその日は大喧嘩の決着が付かず……結局私達はその雑貨屋さんでは何も買わずに屋敷へと戻っていった。
◇◇◇◇
今から数年前。この世界ではヤマト国出身の子供達が攫われていき、奴隷商に高値で売買されていくという酷すぎる事件が頻発していた。そしてサクヤはその被害に遭ってしまったヤマト国出身の男の子だった。
今から二年程前に私は路地裏で倒れているサクヤを保護した後、すぐに両親にその事を報告した。すると両親はサクヤの身を案じて、それからもずっとサクヤの事はレイドレッド家で保護していく事になった。
なのでサクヤとそれからはほぼ毎日のように共に生活をしてきていたので、私にとってサクヤは弟的な存在だった。私には実の兄しかいなかったので、弟的な存在が出来たのがとても嬉しかった。
だから私は何かある毎にサクヤとずっと遊んであげたり、本を一緒に読んであげたり、時には夜遅くまで色々なお話をしていったりもしたものだ。
でも私としては毎日とても優しく接してあげていたのに、弟分のサクヤはとても生意気で私の言う事なんて全然聞こうともしてくれなかった。だからこそ今日も大喧嘩に発展してしまったのだが。
これはそんな真面目で優しいお姉さんな私と、私の言う事を全然聞かない小生意気な弟分のサクヤとの……とてもとても大切な思い出の記憶の話である。
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