第22話(セシル殿下視点③)

「どうしてだ……ミヤ……どうして……」


 アリシアとの婚約破棄が決まった後に……突然とミヤが失踪してしまった。それも何の音沙汰もなくだ。私はその事で茫然自失としてしまっていた。


 私は学園の中でミヤの行方を知る者を必死になって探し続けた。新聞部にも協力してもらいながらミヤの情報提供を求める捜索記事を掲載してもらった。しかしミヤに繋がる手がかりは何も見つからなかった。


「どうしてだ……どうして……」


 つい先日には弟のランスが王都に帰ってきたのだが、そのランスには“ミヤは自国に帰ったんだ”と言われた。


 しかしミヤが私に何も告げずに何処か遠くに出かけたり、ましてや自分勝手に故郷に帰国するなんて考えられない。何故なら私とミヤは深く愛し合っているのだから。だから私の事を愛してくれているミヤが勝手に故郷に帰るわけがなかった。


 つまりミヤはこの王都の近くにいるはずなのだ。それなのに何故かミヤは私に連絡する事が出来ないという危険な状態にあるという事だ。


「そ、そうか……そういえばミヤはヤマト国出身の女性だ……」


 そういえば私は父親のジルク陛下から聞いた事があった。今から十年程前にヤマト国出身の子供達が大量に攫われていき、奴隷商に高値で売買されていた時代があったのだと。


 今現在では世界規模で人攫いや人身売買などは重罪として取り締まられているため、今はもうそんな犯罪を行っている者など存在しないはずなのだが……でも、それでもミヤは世界一美しい女性であるといっても過言ではない女性だ。


 そんな世界一美しいミヤが人攫いに遭ってしまったという最悪の可能性も十分にあり得る話だ。


「そ、そんな……ミヤ……」


 私はそんな可能性がある事に恐怖を覚えた。私の愛するミヤが今も何処かで薄汚い男達に汚されてしまっているかもしれないと思うと……私はショックのあまり吐きそうになってしまった。


 そしてこの王都は世界中から見てもかなり安全な街であると言われているのだが、しかしそんな平和な王都の中にももちろん治安の悪い地区は存在する。路地裏などは浮浪者や金の無い者達のたまり場になっているという話も聞く。


「もしもミヤが何も知らずにそんな裏路地に入ってしまったとしたら……」


 ミヤは他国からの留学生としてこの国に来た。だからもしかしたら何もわからずにこの街の裏路地に迷い込んでしまった可能性もある。なので私は家臣達に急いで街中の捜索をするように命じた。


◇◇◇◇


 家臣達に街中を隈なく捜索をさせてみたのだが、結果としてはミヤがいた痕跡を見つける事は出来なかった。それだけでなく、街中でミヤの姿を見たという者を見つける事も出来なかった。


「これは一体……どういう事だ?」


 私の頭の中にはいくつもの疑問符が浮かび上がっていた。いやそもそもなのだが、こんな誰にも見つかる事もなく失踪など出来るものなのだろうか……?


「……はっ! も、もしや……」


 その時、私の頭にはある人物が思い浮かんだ。その人物とはもちろん……私の元婚約者であったアリシアの事だ。


 そういえば私はアリシアとも婚約破棄をしたあの日から今日に至るまで一度も会っていなかった。きっと今でもあのデカい屋敷の中で人目に見られないようにジメジメと暮らしているのだろう。


「……あぁ、そうか……なるほど……つまりアイツが……」


 アリシアは私とミヤが相思相愛だった事を知っている。だからこそ私との婚約破棄にショックを受けたアリシアが、その腹いせに私の愛するミヤを拉致したという可能性は十分ありえる。


「クソ……こんな事ならあの時に処刑してしまえば良かったんだ……!」


 アリシアとの婚約破棄が決まった瞬間、私は忌々しいアイツの顔を二度と見ないで済むと思ってとても喜んだのだが……しかし今回のミヤ失踪事件に絡んでる可能性がある事に気が付くと無性に腹立たしい気持ちになってきた。


「そんなの……そんなのは断じて許されない卑劣な行為だ……!」


 もちろんアリシアが私との婚約破棄にショックを受けるのは当然の事だというのは私も理解している。


 何故なら私は由緒あるアルフォス国の次期国王となる者だ。そんな偉大なる王の伴侶になるはずだったのに……それが婚約破棄をされる事になるなんて、ショックを受けない女性などこの世には存在しないはずだ。


 しかし婚約破棄をされた腹いせに私のミヤに報復をしたのだとしたらそれは犯罪だ。それにアルフォス国の次期王妃となるミヤの事を傷つけたとあっては……今回ばかりはもうアリシアを庇う事は出来ない。


 今回の件でアリシアの事は極刑に処すしかないだろうな。


「……はぁ、全く。私の言う事をちゃんと聞いて従順に股を開いていればこんな事にならなかっただろうに……はぁ、なんて馬鹿な女なんだ……」


 そもそも婚約破棄をされた原因はアリシア自身にあるのだから、アリシアがミヤを恨むのは間違っている。こんなのはただの逆恨みだ。


 アリシアは自分に与えられた役割を一切果たそうともせず、私に身体を差し出そうとしなかった。しかも国民から頂戴していた税金を使って自由気ままに生活していたのだ。


 そんな国民の敵でしかなかったアリシアが婚約破棄をされるのは仕方のない事だ。私はこのセレスティア国の輝かしい未来のためにアリシアを追放したに過ぎないのだから。


 だから今回の婚約破棄についてはアリシアが全面的に悪いのに、それなのにミヤの事を傷つけようとしているのだとしたら……私はもうアリシアの事を一生許さないだろう。


「……ミヤ……無事でいてくれ……!」


 とにかくアリシアが今期のミヤ失踪事件に関わっているとわかれば話は早い。私は急いでアリシアの住む屋敷へと向かう事にしたのであった。


(第一章:終)


―――――――――

・あとがき


これにて第一章は終わりです、ここまで読んで頂きありがとうございました!


ここからは間章を挟んで第二章へと移る予定です。

これからもアリシアの活躍劇を楽しんで貰えたらとても嬉しいです!


そしてこれからもこの作品を読みたいと思って下さるようでしたら、是非とも本作品の「フォロー」や「☆評価」をして頂けるととても助かります!

フォロワー様や☆の評価が私の投稿のモチベーションに繋がりますので、何卒宜しくお願い致します!


それでは次回の更新でもまた読者の皆様にお会いできるのを楽しみにしております!

そして改めて最後にもう一度、ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!

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