第20話

 セシル殿下にそんな事を言われたのはとてもショックだった。でもそんな事を言われても私は夜伽の命令だけはひたすらと拒み続けていった。まぁそのせいでそれ以降、ずっと殿下には邪険に扱われてきてしまったのだが……。


 そしてそれから数日が経ったある日。 私は殿下の父君であるジルク国王殿下とお話をさせて頂く機会があった。なので私はその機会を使ってジルク陛下にもダメ元で私の考えを聞いて頂く事にした。


『……という事をしてみたいのですが……』

『ほう、なるほど……いや、それは我が国にとってもとてもありがたい提案だ。是非とも君の力をセレスティア国のために貸して欲しい』

『え、よ、よろしいのですか……?』

『あぁ、もちろん良いに決まってるさ。それに君の言葉からはこのセレスティア国の事を大切に思う気持ちがひしひしと伝わってきたよ。そんな君の考えを否定する気持ちなど私には一切ないよ』

『へ、殿下……』

『だから君は自分の考えている事を真っすぐに進んでくれて構わない、私が全て容認しよう。必要な物資などがあったら気軽に言ってくれ、私が何とかしよう』

『あ、ありがとうございます……!』


 こうしてセシル殿下に一蹴されてしまった私の計画だったのだが、ジルク陛下の力をお借りして私は再びこの王都でポーション薬の研究開発を始めていく事が出来たのであった。


 この屋敷もジルク陛下にポーション薬の生産設備を作りたいという私のお願いを受けて用意してくれたんだ。本当にジルク陛下には何度感謝しても感謝しきれないわ……。


◇◇◇◇


「……無理を承知でお尋ねさせて頂きますが……兄とやり直すという選択肢はありませんか?」

「……いえ、申し訳ありませんが……」

「……そうですか、いやそうですよね。無理な事を尋ねてしまい申し訳ありません」


 ランス殿下はそう言ってもう一度私に深々と頭を下げてきた。私とセシル殿下はもう終わったのだとランス殿下も既に理解してくれているようだ。


「いえ、こちらこそジルク陛下やランス殿下には何度も良くして頂いたのにこんな結果になってしまい本当に申し訳ありません。それで、私は近い内にアルフォス領に戻ろうと考えております」

「……そうですか、はい、わかりました。それではアリシア義姉様がこの王都からアルフォス領に帰る手配は私の方でしておきます」

「えっ!? そ、そんな……よろしいでしょうか?」

「えぇ、もちろん構わないませんよ。今まで義姉様には多大なる恩があるのですから。ですから最後に私からも恩返しをさせてください」

「ランス殿下……はい、わかりました。それではお言葉に甘えさせて頂きますね」


 私はランス殿下のお言葉に甘える事にして、王都からアルフォス領に帰る手配をランス殿下にお願いする事にした。


「本当にありがとうございます。あぁ、それと……この屋敷についてなのですが、中の設備に関してはそのままにしておきますので、こちらの運用はランス殿下とジルク陛下にお任せしてもよろしいでしょうか?」


 先ほども言ったように、今私が住んでいるこの屋敷の大半がポーション薬を作りだすための自動生産設備になっているのだ。


 流石に高品質なポーション薬に関しては素材の分量がとてもシビアになってくるので手作業でないと精製は不可能なのだが、中級以下のポーション薬であれば指定された素材をちゃんと入れればあとは自動で生産する事が可能な設備になっている。


 さらにこの屋敷の庭周辺には中級以下のポーション薬の原料となる“ブルーリーフの木”も沢山植えられていた。これは私が実家のあるアルフォス領から取り寄せた木々達だった。ブルーリーフの木はアルフォス領の特産品でもあったんだ。


 という事でこの屋敷では中級以下までのポーション薬は素材集めから生産までを全て行える施設となっていた。


 そしてこの世界にポーション薬を自動的に生産する事の出来る設備があるのは絶対にこの王都にしかないだろう。それだけこの屋敷はかなり貴重な施設となっていた。


「はい、もちろん。私達としても義姉様が一生懸命に作り上げてくれたこの設備をどうか引き継がせていただきたいと思っておりましたので」

「そうですか、それなら良かったです。それでしたら……こちらの施設運用で得られる利益に関しては全てセレスティア国に寄付させて頂きますので、そちらも併せてご活用して頂ければ幸いです」

「え……よろしいのですか? ほ、本当にありがとうございます……! これでこの国の財源も潤っていくはずです。いや義姉様には本当に何と感謝を伝えたら良いのか……」

「いえ、私への感謝は不要ですわ。その分セレスティア国に住む人々の生活向上に繋げて頂ければ私はもうそれで十分ですので」

「……はい、わかりました。必ずや国民の生活向上に繋げるために活用させて頂きます」

「えぇ、お願いいたします、ランス殿下」


 私はそう言いながらランス殿下に頭を下げた。私達貴族の役割というのは困っている人々を救う事だ。なので私がこのポーション薬の生産設備で稼いできたお金を国民のために還元して頂けるのであれば、私はもうそれで満足だ。


「設備の使い方はランス殿下は全てわかっておられますよね? もう一度改めて聞いておきたい設備の使い方とかありますか?」

「あぁ、いえ、大丈夫ですよ。私もこの二年間で設備については沢山触らせて貰いましたし」

「ふふ、そうですか、それなら良かったです」


 実はこのランス殿下も私のポーション薬の研究開発を何度も手伝ってくれていたんだ。そのおかげでランス殿下もこの二年間で薬学の知識はだいぶ蓄えられており、この屋敷にある設備の使い方もランス殿下は全て熟知されていた。


「あぁ、ですが今後は私が居なくなってしまうので……これからはこの屋敷では高品質なポーション薬の生産や、私が生み出してきたオリジナルのポーション薬などの生産も出来なくなりますので、その点だけはご留意ください。もしもそれらのポーション薬が必要な時はレイドレッド家の方にご連絡を頂ければ私の方で精製してお送りしますので、その時は都度連絡をお願い致します」

「えぇ、わかりました。何から何まで本当にありがとうございます……!」


 私が居なくなる事で作れなくなるポーション薬についての説明も完了した。


「あとは……そうそう、この屋敷にある設備に関してですが、どれも貴重な資源で作られた一点品の機械となっております。なので多少の破損程度であれば幾らでも修理する事は出来ますが、大きく破損してしまうともう二度と同じ設備を作る事は出来なくなります。なので設備をぞんざいには扱わないようにお願い致しますね」

「えぇ、もちろんそれについても存じ上げております。その点も私の方で管理を徹底させていきますのでご安心を」

「はい、わかりました。それではこちらの屋敷については今後はランス殿下の方で管理をお願いいたします」


 こうしてこの屋敷についての管理はランス殿下に任せる事となった。引き渡しなどについての話はまた後日、改めて私の従者であるサクヤにして貰う事にした。


「あ、それと……“ミヤ様”の事についてなのですが……」


 私が心配そうな顔でそう言うと、ランス殿下はそれで察したように深く頷いてきた。


「あぁ、大丈夫です。兄上には私の方でミヤ様は家の都合で祖国に帰ったと何度も言っておきましたので。流石に身内の言う事くらいは兄上も聞いてくれると思いますのでご安心ください」

「あぁ、良かった……はい、わかりました。ありがとうございます、ランス殿下」


 私はそう言って殿下に向かって感謝の言葉を伝えた。これでこの屋敷とミヤ嬢についての問題はある程度は解決できそうだ。

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