第15話(セシル殿下視点②)
アリシアに対する不信感が募りに募ってきたとある日の午後。
「あの……」
「ん? なんだ?」
私は王立学園の廊下を歩いている時に突然と後ろから声をかけられた。私は誰だろうと思いながら後ろを振り返ってみると、そこには私のハンカチを手に持った女子生徒が立っていた。
「失礼致します殿下。先ほど廊下でこれを落としていましたよ」
どうやら私は気づかぬ内に廊下でハンカチを地面に落としてしまっていたようだ。そして目の前の女子生徒がそのハンカチを拾って私に届けてくれたようだ。
「あぁ、すまない、ありが……」
私はハンカチを受け取ろうとしてその女子生徒の顔をちゃんと見ようとしたのだが……その者の神秘的な美しさに私はハッと息を吞んでしまった。その女子生徒の名前は“ミヤ・レガード”と言う一学年下の女子生徒だった。
ミヤはアリシア同様に今から約一年程前にこの王立学園に転入してきた女子で、出身地は極東に位置するヤマト国と呼ばれる所の出身らしい。
そしてヤマト国と言えば容姿端麗な者がとても多い国だと聞く。しかしそのせいで今から十年以上前には、ヤマト国の子供を攫っては高値で奴隷商に売りつけるという人身売買が横行していたという話も聞く。
しかしそのような悪行は私の父であるジルク陛下が世界中の国々と連携して取り締まり強化を行っていったのだ。そしてその結果として人身売買のような悪行は全て摘発されていったのであった。
なので今ではヤマト国の者達は安全に暮らせるようになっており、このセレスティア国にもヤマト国出身の者がこうやって留学に来てくれたりする事も増えてきていた。
そしてそんなヤマト国出身のミヤなのだが……ミヤは私が今まで見てきた数多くの女性の中でも一番美しい美貌を持っていた。
(す、すごいな……こんなにも美しい女性がこの世にいるとは……!)
私はそう思いながらミヤの姿をもう一度改めてじっくりと見ていった。
ミヤは身長は170センチほどはあり、体型はスラっとしたスレンダー体型だった。また、容姿に関しては紫色の瞳と漆黒のように綺麗な黒髪のロングヘアがとても似合っており……いや本当に今まで何人もの美しい女性を見てきたが、これほどまでに美しい女性を見たのは生まれて初めてだった。
それに今のミヤの言葉遣いや丁寧な立ち振る舞いを見ただけでも、ミヤはかなり上の爵位を持つ家系に生まれた令嬢だというのは容易に想像がついた。おそらく幼少の頃からしっかりとそういう作法を学んできたのだろうな。アリシアのようなまがい物の貴族とは違ってミヤは本物の貴族だとそう感じる事が出来た。
(いや、本当に素晴らしいな、このミヤという女性は……)
という事で私はこのたった数分間の出来事でミヤに心がどんどんと惹かれていった。そして私はミヤの事をもっと知りたいと思い、その日からミヤと交流を深めていくようになった。
まぁでも私自身王族として多忙なため、ミヤと話をしに行くタイミングというのは中々見つけらなかったのだが、それでも少しの時間を見つけてはミヤと二人きりで話をするというのはとても楽しいひと時だった。
そして私がミヤに話しかけると、時折だけど私に向けて柔和な笑みを私に向けて見せてくれる事があった。私はそんなミヤの柔和な笑顔が大好きだった。そしてそんなミヤの素敵な笑顔は私以外には絶対に見せてほしくないと切に願っていった。
だからそれからも私はミヤの素敵な笑顔をずっと見たいがために、時間がある時はなるべくミヤと交流を深めるようにしていったし、さらにはミヤへの贈り物も沢山していった。
そしてそのおかげでようやくミヤは私に会う時にはいつも私の大好きな柔和な笑みを見せてくれるようになったのだ。そしてその瞬間……ついに私達は相思相愛の仲になれたのだと気が付く事が出来たのであった。
しかしそれと同時に、私はとある事を思い始めていった。
(……何故……何故私の婚約者はアリシアなのだ……)
私は自身の婚約者であるアリシアの事を頭に思い浮かべていった。アリシアは確かに容姿端麗だし、身体つきも健康的で豊満な肉体を持っている。
しかしアリシアはそれ以外には何も取り得のない無価値な女だ。愛想は悪いし、貴族としての素養もない。さらに学園も休みがちだし、次期国王である私の夜伽の相手もひたすらに拒み続けるという、本当にどうしようもない女だ。女のクセに
(そんな私にとって何の利益にもならない田舎者の女と結婚するくらいなら……お互いに惹かれ合っているミヤと婚約を進めていった方がお互いのためになるのではないか?)
そう考えた私は次の日にミヤへそれとなく私の事をどう思っているか聞いてみた。
「率直に聞きたいのだが、ミヤは私の事をどう思っている?」
「殿下の事ですか? はい、もちろんこのセレスティア国の第一王子としてとても優秀な御方であられると思っておりますよ」
「ふむ、そうか」
ミヤはいつも通り柔和な笑みを浮かべながら俺に向けてそう言ってきてくれた。このような事を言ってくれるだなんて……あぁ、やはりミヤは私の事を愛してくれているに違いない。
(ふふ、やはり私の運命の女性はミアだったんだな……)
私はそう確信した。なので私はミアに告白をしようとした。しかし……
「えぇ、ですからこれからはアリシア様と共により良い国作りを頑張ってくださいね」
「……ん? な、なんでアリシアの名前が出てくるのだ……?」
私がミアに告白をしようとしたその瞬間、ミアから変な言葉が発せられてきた。
―― ……アリシア様と共により良い国作りを頑張ってくださいね
何故この瞬間にアリシアの名前が出てくるのか意味が全くわからずに、私は素っ頓狂な声を上げながらもそう聞き返した。
「え? 何でと言われましても……だってアリシア様はセシル殿下の婚約者ですよね? だからセシル殿下とアリシア様が二人仲良く協力しあってより良い国作りをするのを私は祈っておりますよ。どうかこれからもアリシア様とお幸せに暮らしていってくださいね」
ミヤは私に向かってそんな事を言ってきた。私はミアがそんな悲しい事を言ってくるなんて思いもしてなかったので、ショックを受けてしまいそのまま膝から崩れ落ちそうになってしまった。
(い、いやしかし……)
しかし私は知っている……アリシアはミアの事を虐めているのだ!
私はつい先日ミアを探していた時に、偶然にもアリシアがミアの背中をバンバンと強い力で何度も叩いている所を目撃していたのだ。きっと田舎者の女の事だ、ミアの素晴らしすぎる美貌の前に嫉妬でもしてしまったのだろう。
という事は今ミアが言ってきたこの言葉も明らかに本心ではないはずだ。何故ならミアはアリシアに虐められいるのだから。きっと今もアリシアに弱みを握られていて本心で喋る事が出来ないんだ。本当は私に助けを求めたいはずなのに……!
(まさかこんな所でもアリシアが私の邪魔をしてくるだなんて……つくづく邪魔なやつだな……あの田舎者の女は……!)
もはやアイツは私にとってはただの疫病神でしかなかった。そんな一件があってから私は次第にアリシアの事を憎しみだすようになってきていた。
もうこれ以上、何の役にも立たない田舎者の女を婚約者にし続けておく事など……私にはもう出来ない。だから私はその日から邪魔者であるアリシアを婚約者の座から引きずり降ろす方法を考え始めていった。
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