第13話

 とある日の夕方。


「……ん、ぁ……れ……?」


 私は自室の机の上に突っ伏して眠っていたようだ。先ほどまで私は自室の整理をしていたはずなんだけど……どうやらその途中で疲れてしまいそのまま机に座ったまま眠ってしまっていたらしい。


「ん、んんー……ふぅ、何だか懐かしい夢を見てた気がするなぁ……」


 何だか私は先ほどまでとても懐かしい夢を見ていた気がするんだけど……でも何の夢を見ていたのかまでは思い出せなかった。


「うーん……まぁいいか、ふぁ……」


 せっかくだから夢の内容を思い出してみたかったんだけど、でも中々思い出せそうにもないので、私は諦めて欠伸をしながら背伸びを始めた。


「ん、んー……よし。それじゃあ続きをしていきましょうか」


 という事で私は先ほどまで行っていた自室の整理を再開していった。


 ちなみに私が自室の整理を始めた理由は、殿下との婚約破棄が正式に決まったらいつでもこの王都から旅立てるようにするためだ。


「よいしょ……って、あれ? ……あぁ、これは……」


 私は机の引き出しを勢いよく開けてみると、そこには大量の写真が入っていた。私はその写真の束を見て気分が落ちてきた。


 でもその写真は簡単に処分するわけにもいかないものだったので、私はとりあえずその写真を机の上に並べてみる事にした。


「はぁ、全くもう……これはどうしようかしらね……」


 机の上にズラっと並べたその写真の全てにはセシル殿下が写っていた。もちろん殿下だけでなく若い女性もセットで写っている。


 それは殿下と若い女性が口づけを交わしている写真や、逢瀬を楽しんでいる写真など……まぁ端的に言えば殿下の浮気の証拠だ。


 元々殿下の女癖が酷いという噂を聞いた事があったので、私は王都に来てからすぐにサクヤにお願いしてその噂の信憑性を確かめて貰っていたんだ。


 そしてその結果として、私は王都にやってきてからたったの数ヶ月間でこれだけの量の浮気写真を集める事が出来てしまったというわけだ。サクヤの腕が凄いというのもあるのだけど、そもそもあの人は女遊びをしすぎなのよ。


「はぁ……でもそれからすぐに殿下の浮気なんてまだまだ可愛いものだったという事に気づくのだけれどね……」


 本当にもう、殿下の女癖の悪さのせいで沢山の女性を不幸な目に合わせてしまう事になるなんて……元婚約者の立場としても本当に申し訳なく思うわ……。


「はぁ、それにしても……本当にどうしたものかしらね……」


 私はため息をつきながら手元にある沢山の証拠写真をぼーっと眺めていった。そしてその時、私はとある事を思い出した。


 そういえば今、この王都では演劇や小説の題材として“復讐”や“制裁”の話が今とても流行っているらしい。主人公が恋人や友人などに酷い目に合わされてしまうのだけど、そんな酷い相手に復讐をして爽快感や達成感を得るという物語がとても流行っているのだ。


 そして今の私もそれらの物語に登場する主人公のような立ち位置だった。何だか変な濡れ衣を沢山着せられてしまい、その結果として婚約破棄を突き付けられてしまったわけなので……。


「もしもこの世界が演劇や小説の世界だったら……私もその主人公達と同じようにこれから殿下に思いっきり制裁して復讐をするんでしょうけど……」


 これが物語の世界だったら、私は今から自分の無実の証明をしたり、逆に殿下の悪逆非道な行為を世間に公表して殿下を失脚をさせるような展開になるんだろうな。まぁでも……。


「……はぁ、もうどうでもいいわ」


 私はそう呟きながらその写真の束をまとめて机の中に戻していった。


 王都にやってきたばかりの頃の私だったら、悪逆非道な行為をしている殿下に対して制裁をする気力はあったかもしれない。でも今の私にはそんな気力は残っていない。


 というかもうこれ以上殿下の事で無駄な労力を使う気になんてなれない。そもそも殿下への愛想なんてとっくの昔に尽きているのだから。


 だからもうこのまま何事もなく王都から出て行く事が出来るのであれば、私はもうそれでいいと思っている。でも……。


(……でもあの殿下の言葉は相当に不穏よね……)


 そう、私が何事もなくこの王都から出て行くためには不安材料が一つだけあった。もちろんその不安材料とは……。


―― 私には最愛の“ミヤ”がいるのだから……


「……」


 私は殿下のその言葉を思い出した。殿下曰く、殿下とミヤは相思相愛の仲らしい。そして私との婚約破棄が正式に決まり次第、ミヤとの婚約をするつもりだとの事だ。


「……流石にそれだけは先手を打っておかないとね……」


 私にとって“ミヤ”は世界で最も信頼している大切な人だ。そんなミヤが変な事件に巻き込まれそうになっているのだけは見過ごせないわ……。

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