第5話

 それから数日が経過した。


 私はそれ以降も謹慎処分を受け続けた状態だったので、この数日間ずっと屋敷の外には出る事が出来なかった。


 まぁでもポーション薬の研究開発の設備はこの屋敷の中に全て揃えていたので、私はこの数日間はずっと研究開発の仕事だけに全集中していた。


 そして今日も朝ごはんを食べ終えた私は新しいポーション薬作りのために自分の部屋に籠って沢山の文献を読み漁っていた。


―― コンコン……


 すると突然、私の部屋をノックする音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


 私がそう言うと、すぐに私の部屋のドアが開かれた。ドアをノックしてきた人物は従者のサクヤだった。 


「失礼します、お嬢様」

「あらサクヤ。何かあったのかしら?」


 私は文献を読むためにかけていたメガネを外してサクヤの方に顔を向けた。急にサクヤが私の部屋に尋ねに来るなんて何かあったのかしら。


「はい、つい先ほどですが、セシル殿下の使者がお嬢様宛てに王宮への招集命令を届けにやって来ました」

「招集命令? 何だかまた不穏そうな響きね。それじゃあ早速だけど、その届いた命令書とやらを見して貰えるかしら?」

「はい、こちらになります」

「ありがとう。さてと……」


 私はそう言ってサクヤが手に持っていた招集命令書を渡して貰った。


 そして私はその命令書の内容をサラっと読んでみたのだけど“謹慎処分を一旦解除するから、今日の正午に王宮に来るように”という事を長々とお説教を交えた長文で書かれていた。


 いや、命令書なんだからもう少し簡素化して書けないものかしらね。まぁでも、そんな事よりも……。


「はぁ、全くもう……今日の正午だなんて何とも急すぎる招集命令ね。普通こういうのはもっと時間的な余裕を設けるものじゃないのかしら?」


 今日の正午だなんて、あと二時間くらいしかないじゃないか……。


 この屋敷から王宮に向かわなければいけないという事を考えるとあと一時間以内には屋敷から出なければならない。王宮に向かうための身支度をたったの一時間で済ませろだなんて無茶を言ってくる。


 本当に私の都合を全く考えていない招集命令で腹が立ちそうになる。もしかして殿下は女の身支度なんて10分もあれば余裕だとでも思っているのかしらね。


「……如何いたしましょうか? 幾ら相手は王族だと言っても流石にこの対応は不躾過ぎかと。なのでお嬢様がこの招集命令を拒否したとしても何も問題はないかと思われます」

「……そうね。こんな不躾な命令を国王陛下が認めるわけないでしょうし、きっとセシル殿下が勝手に送って来た命令書でしょうね」


 とても真面目な国王陛下がこのような不躾な命令書を許すはずがない。そもそも国王陛下はまだこの国に帰ってきてないのだから、こんな命令書を国王陛下が作れるわけがない。


 だからこの命令書はセシル殿下が勝手に作り上げて私に送って来たという事でまず間違いはないだろう。


 だからサクヤが言うようにこの命令書を拒否した所で私に何かしらの罪が発生する事はまずないだろう。だってこのような不躾すぎる命令書を送った方に問題があるのだから。


「……まぁでもいいわ。この命令に従って王宮に向かう事にするわ」

「……え、よろしいのですか?」


 だから私はこの命令を拒否しても別に良いんだけど、でも今の状態のまま何も進展せずにまた時間だけズルズルと消費させてしまうのだけは良くない。それにこのままずっと謹慎処分を受け続けているのも流石に辛いしね。


「もう時間もギリギリまで迫っていますし、無理してこの命令に従わなくてもよろしいのではないでしょうか?」

「えぇ、もちろんサクヤの言いたい事もわかるわ。でも招集命令の理由はわかりきっているし、私としてはさっさとこの騒動を終わらせたいのよ」


 どうせ私を招集する理由なんて私を糾弾する事以外にないはずだ。でもそんな糾弾を受ける事で婚約破棄が早急に決まるのであればそれで良いと思っている。もう私としても無駄に時間をかけるくらいならさっさと婚約破棄を確定させてほしいのだ。


「……はい、わかりました、お嬢様がそう決めたのであれば私はそれに従うまでです」

「えぇ、ありがとう、サクヤ。さて、それじゃあ急いで王宮に向かう準備をしないとね。でももう時間もないしドレスは……もう一番シンプルなものでいいか」


 王宮に向かうためにはそれなりの正装をしていかなければならないのだけど、でももう時間もないのである程度妥協した恰好で行くしかない。まぁでも婚約破棄をされに行くだけだから派手な恰好をする必要なんて全くないし、ある程度は楽な服装でいいわよね。


「よし、それじゃあサクヤ、申し訳ないのだけどメイド長を呼んで貰えるかしら?」

「はい、かしこまりました」


 まぁそうは言ってもこんなギリギリの時間では私一人で身支度を済ませるのは確実に不可能なので、私はサクヤに頼んでメイド長をここに連れてきて貰うように頼んだ。


 本当は時間もギリギリだったからサクヤに私の着替えの手伝いを頼んだ方が効率的にも良かったのだけど……でも幾ら私がサクヤの事を一番信頼している従者だと言ってもサクヤは男の子だからね。だからサクヤに私の身支度をお願いするのは流石に恥ずかしいもの……。


(……あれ? でも何でサクヤが相手だと恥ずかしいんだろう?)


 その時、私はふとそんな事を思い始めた。婚約者のセシル殿下が相手なら別に私は自分の裸を見られた所で何も感じる事はないと思う。


 でも、もしもサクヤが相手だったら私は裸を見られたら恥ずかしいと絶対に思ってしまうはずだ。うーん、でもこの違いは一体何なんだろう?

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