第6話

 セシル殿下からの招集命令を受けて、私は急いで身支度を済ませて王宮へと向かった。


 王宮につくとすぐに私は広間へと連れて行かれた。そこにはセシル殿下の他にも身分の高そうな方が何人か来ていた。でも……。


(……やはり、陛下もランス殿下もいないようね)


 でもその中にはセシル殿下の父君であられるジルク陛下も第二王子のランス殿下も居なかった。やはり御二方はまだ王都には帰って来ていないようだ。


 私としてはジルク陛下にも話を伺いたい場面ではあったのだけれど、まぁこればっかりはしょうがないか。


「さて、貴様への処遇は既に決まっているのだが、その前に今回の件についてアリシアから何か申し開きはあるか?」

「……えっ? 私から申し開きですか?」

「あぁ、そうだ」


(いや、申し開きと言われても……)


 いきなり今回の婚約破棄騒動の件について私の方から弁明をしろと言われても何をどうしろというんだ? またこの御方は唐突に意味のわからない事を言ってくるな……。


(……あっ。そうだ、そういえば……)


 でもその時に私はとある事を思い出した。そういえば前回の最後にセシル殿下が私に向けて言い放ってきたあの言葉の意味が未だにわかっていなかったんだ。何かもう色々とありすぎてその事をうっかりと忘れていた。


「あの、それではもう一度だけ確認させて頂きたい事があるのですが」

「確認したい事? 何だ?」

「はい、以前殿下は“私がミヤ様の事を虐めていた”と仰っておりましたが……それは確かな情報なのでしょうか? 一体誰からその話を聞いたのでしょうか?」


 という事で私はもう一度“ミヤ”の件についてを殿下に尋ねてみる事にした。何故なら私がミヤの事を虐めていたなんて事実は絶対にないからだ。全くもって事実無根なのに、そんな酷い嘘を流布している人物が一体誰なのか私は知りたかった。


「ふん、そんなの確かな情報に決まってるじゃないか! 何故なら私がミヤ本人から直接そう聞いたのだから!」

「え……って、えっ!? ミヤ様本人から聞いたのですか!?」


 私はその衝撃的過ぎる発言を聞いて非常に驚愕とした表情で殿下の顔を見てしまった。すると殿下はそんな私の驚いた表情を見てふふんと誇らしげに笑ってきた。


「あぁそうだ。ミヤはとても辛そうに涙を流しながら私にそう報告してくれたのだ。私の婚約者であるアリシアに毎日虐められていてとても辛いから助けてほしい……とな!」

「……は、はい? 私が毎日虐めていたですって?」


 殿下は満足気な笑みを浮かべながらそんな事を言ってきたのだけど、でもやはり私の頭には沢山の疑問符が浮かび上がっていた。


(私がミヤの事を虐めていたと告発してきたのは……ミヤ本人だったってこと!?)


 いや、それだけは絶対にあり得ない。


 何故なら例え全世界中の人々が私の事を嫌いになったとしても、ミヤだけは絶対に最後の最後まで私の味方でいてくれるという絶対的な自信があるからだ。


 私はそれほどまでにミヤという生徒の事を信頼しているのだ。だからセシル殿下が今言った発言を私は到底信じる事など出来なかった。


「……いや、しかし私が実際にミヤ嬢の事を虐めていたという確たる証拠はあるのでしょうか? 何の証拠も無くミヤ様の証言だけで私が虐めていたとい――」

「ええい、うるさいぞアリシア! 実際に貴様がミヤに暴力を振るっていた所を私もこの目でしっかりと見ていたんだぞ! どうだ、これで文句はないだろ!」

「……えっ?」


 殿下はイラつきながら突然そう叫び出した。私がミヤに暴力を振るっていた所を目撃したと、殿下はそう証言してきたのだ。


「え……い、いや本当に殿下はその光景をご覧になっていたのですか? それは一体いつ頃の出来事でしたか?」

「ふん、今更焦っても遅いぞ! 貴様がミヤに暴力を振るっていたのはちょうど1ヵ月程前だ。貴様がミヤの背中を思いっきりの力を込めて何度も叩いている所を私はこの目でしっかりと見ていたぞ!」

「え? あ、あー……」


 ちょうど一ヶ月程前だと言われて私は昔の記憶を思い出してみる事にした。すると確かに今から一ヶ月くらい前に私はミヤと一緒に学園の廊下を歩いていた日があった。


 そしてその時はミヤの背中に糸くずがついていたので、私はそれを払いのけるためにミヤの背中をポンポンとはたいた記憶はある。


(……えっ!? も、もしかしてそれの事を言ってるのこの人は??)


 そんな軽くはたいただけでそれを暴力だと言われても困ってしまうのだけれど……まぁでもミヤの背中をはたいた事は事実なので、セシル殿下がそれを暴力だと勘違いしてしまった事はギリギリ理解は出来る。


 でもミヤ嬢が泣きながらセシル殿下に訴えてきたという話だけは絶対に嘘だ、それだけは絶対に断言出来る。


(……でもそれでは何故セシル殿下はそんな奇妙な嘘をついているのだろう?)


 どう足掻いても私の頭の中には沢山の疑問符が浮かんでしまうのであった。

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