第3話
セシル殿下に婚約破棄を告げられてから一日が過ぎた。
私はこの王都で間借りしている屋敷に戻った後はセシル殿下からの謹慎処分の命令を守って、私は屋敷の中でひたすらぼーっと一日を過ごしていた。
「はぁ、昨日は色々とあったわね……」
まさかセシル殿下の誕生パーティー中にそんな大事件が起きるだなんて誰もが予想してなかった事なので、来賓の方々には騒然とさせてしまった。その事に関しては私も非常に申し訳なく感じてしまう。だけれど……
「うーん……」
だけれど私自身……この国の第一王子から婚約破棄を告げられた事に関しては辛いという気持ちは1ミリもなかった。
そんな気持ちなんかよりも婚約破棄を告げられた理由が未だに不明瞭だったので、今の私にとっては“一体何が起きたんだ?”という疑問の気持ちの方が強かった。
―― 貴様、ミヤの事を散々と虐めていたそうだな!
そういえば最後にセシル殿下は私に向けてそう怒鳴ってきた。でも私にはそのセリフの意味が未だにわからず……私の頭の中にはいくつもの疑問符が並んでいた。
出来る事なら殿下とこのセリフの意図についてだけでも話したかったのだが、でも王宮から追い出されてしまってはもうどうする事も出来ない。
「まぁ、なるようにしかならないか」
という事で現状として私はセシル殿下に婚約破棄を告げられてしまったわけだけど、でも私はこれを撤回して貰うような動きを取るつもりは特にない。
何故なら以前にも言ったけどセシル殿下はどうしようもなく女癖の悪い男だったからだ。セシル殿下はほぼ毎日のように様々な女性と逢瀬を楽しむような性欲に忠実な男だった。
「……いや、まぁ沢山の女性と逢瀬を楽しむくらいならまだ別に良かったんだけどね」
セシル殿下は王族なのだから複数の側室を構える事は何も問題ではない。だから沢山の女性と逢瀬を楽しむ事自体は別にそこまでの問題ではなかった。
では何が問題だったのかというと……殿下は側室に迎え入れるつもりのない女性達と毎晩のように逢瀬を楽しんでいたんだ。しかも避妊行為を一切せずに。
その結果として、殿下は沢山の女性達を無責任にもずっと孕ませ続けてきたのだ。しかし殿下はその妊娠させた女性達の事を誰一人として側室に迎え入れる事はしなかった。
何故なら殿下がそのように無責任に孕ませ続けてきた女性達というのは全員が普通の平民だったからだ。たとえ側室であろうとも王族の男性は平民の女を王家に引き入れるなんて事は絶対にしないのだ。
だからセシル殿下はその身分差を理由にして無責任に孕ませた女性達を全員無理矢理に堕胎させていったのだ。もちろん女性達は皆泣いて拒否してきたのだが、殿下は王族の力を行使して無理矢理に全員堕胎させたのだ。
そしてその堕胎させた女性達を黙らせるために殿下は彼女達に沢山のお金を渡して黙殺していったのだ。つまりは手切れ金というやつだ。
この国の財務状況がここ数年で圧迫しだした理由はそこにあった。要はセシル殿下が無理矢理堕胎させていった女性達への手切れ金としてこの国のお金を大量に使っていたんだ。
結局、セシル殿下に妊娠させられた女性達は全員が泣き寝入りをするしかなかった。中には酷い堕胎方法を受けた者もいて、若くして一生子供が出来ない身体にされてしまった者もいれば、精神的なショックを受けたせいで未だに寝たきりの生活を送っている者もいる。
もちろんこれは全てセシル殿下が秘密裏に行っていた事だ。この事を知っているのは殿下と側近の者達だけのはずだ。
だから本来なら私もこんなのは知り得ない情報なんだけど……でも私にはとても優秀な従者がいるのだ。これらの情報は全てその従者が調べてくれたものだった。
そしてそのあまりにも酷すぎる殿下の悪行を知ってから……私は殿下の手によって様々な傷を負ってしまった女性達の傷を少しでも治療させるべく、私はその女性達に向けた新しいポーション薬の研究開発に勤しんでいった。その結果として私は王立学園を休む頻度が増えてしまったというわけだ。
ちなみに私は殿下とは婚約状態だったので、まだ殿下と夜伽の相手をした事は一度もない。王族や貴族の女性は古くからの教えとして結婚するまでは自身の処女はしっかりと守り続けていき、結婚後の初夜で相手の男性に処女を貰ってもらうという事が昔からの通例となっているのだ。
……まぁもちろんそれは昔の通例なので、今でもその通例をしっかりと守り続けている真面目な貴族の女性もいれば、そんなの全く守らずに性に自由奔放な貴族の女性もいる。昔と違って今は多様性の時代なので、そこら辺の貞操観念は貴族であっても人それぞれで異なっている。
もちろん殿下もそんな通例は形骸化している事は知っていたので、婚約を受け入れた後に少し経ってから殿下は私の事を頻繁に夜伽を誘ってくるようになっていった。でも私は殿下の悪行を知っていたので、殿下からの夜伽の誘いは全て断っていた。女性を食い物にしている殿下の事が許せなかったからだ。
でもセシル殿下は私が“古くからのしきたりを守らねばならないので、私は結婚をするまでは処女を貫き通します”と何度も言って断ってきたのに、それでも頑なに私の事を夜伽に誘ってきたのだ。もしかしたら殿下は私達女性の事を自分の性欲を解消させるための道具としか思ってないのかもしれない。
「はぁ、全く……父君であられるジルク陛下や第二王子のランス殿下はとても清廉潔白な御方達なのに、どうして第一王子のセシル殿下だけはあんなにも女癖が悪いんだろう……」
私はそんな事を思いながらため息をついていった。
セレスティア国の王であられるジルク陛下はとても優しく真面目な王として認知されている。そしてジルク陛下は誰よりも世界平和を第一に考えていらっしゃる本当に凄い御方だった。
今から十年近く前に世界中では人攫いや人身売買などの悪逆非道な行為が横行していたのだが、その時にもジルク陛下が率先して世界中の国々と連携して取り締まりを強化していったのはとても有名な話だ。
そして第二王子のランス殿下もそのようなジルク陛下の事を非常に尊敬しており、ランス殿下もジルク陛下同様に清廉潔白で真面目に生きている御方だった。
私は今までに何度もジルク陛下やランス殿下とお話をさせて貰った事があるのだけど、本当にとても真面目で優しい御方達だった。だから私はあの御方達の事はとても尊敬をさせて貰っている。でもセシル殿下の事だけはちっとも尊敬出来ない。
「はぁ、もしもジルク陛下かランス殿下のどちらかが居てくださったら違う結果になっていたのかもしれないわよね……」
しかしそんなジルク陛下は国王の仕事として数か月前から諸外国への外交活動に出かけているので今はこの王都にはいないのだ。そして第二王子のランス殿下もジルク陛下の補佐のためにジルク陛下と共に旅立ってしまっていた。
という事で今現在、セシル殿下の暴走を止められる者は誰一人として存在しないという事になっているのだ。
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