第7話 学院決闘
「新人潰しか」
俺は舌打ちをしながら、その状況を理解する。
以前、同じような場面に遭遇したことがある。
というのも、やられた側は自分自身であった。
この学校に伝わる悪しき風習である、新人潰し。
騎士の世界は甘くないということを身体に教え込む意味があるらしく、まさに自分も新入生の頃にやられたものだ。
もっとも、俺の場合はやり返してやったが。
「この、騎士の風上にも置けない下衆が!」
イリスは表情を歪め、怒りに声を荒らげる。
どうやらこの娘は、騎士というものに並々ならない誇りを抱いているらしい。
初めて出会った時も、コイツは騎士の在り方について随分と口うるさかった。
だが、俺はその姿に矛盾を感じる。
それだけの人間が、どうして七雄騎将に興味を持たないのか。
「あ? お前は誰だよ。新入生如きが偉そうに――――」
「あぁ、悪いな。そいつは俺の担当してる奴だ」
流石に見ているだけなのも忍びない。
俺は一歩前に踏み出し、男の言葉に口を挟んだ。
「クルード…………」
「生意気な奴だろ? 目上を敬う事を知らないんだコイツは。どうか許してやってくれ」
その言葉に誰よりも反応したのは、少女の傍に寄り添うイリスであった。
イリスはこちらに振り返り、怒りをぶつける。
「この、アンタも所詮……!」
「おぉ、分かってくれるか。流石、英雄様は言うことが違――――」
「そこでだ」
二人の言葉を遮り、静かに口を開く。
「聖キャバリス学院3年、クルードの名のもとに。
「なっ!?」
「はい?」
学院決闘。
その単語に、男とイリスはそれぞれ異なる反応を示す。
男は驚愕し、イリスは困惑の表情を浮かべていた。
「ちょっと待て! どうしてそうなる!?」
「お前は後輩に罵倒され、その後輩はお前に友人を傷つけられた。お互い不名誉を被っているのだから、決闘の条件は揃っているはずだが?」
「あの……、学院決闘って?」
イリスはその様子を眺めながら、恐る恐る口を開く。
あぁ、そういえばコイツはまだ知らないんだったか。
「この学院の中で定められた制度の一つだ。中立な立場である立会人と、不名誉を被った両者同意のもとで行う事が許される。まぁ、ようするに」
俺は笑みを浮かべながら、イリスに対して言葉を投げかける。
「ムカついたなら、言葉よりも剣で語れってことだ」
「………………そういうの、分かりやすくて好きですよ」
イリスはゆらりと立ち上がると、男に向かって視線を向ける。
その瞳は
「ちょっと待て! 俺はまだやるとは言ってない!」
「あれ、逃げんのかぁ?」
決闘を拒否しようとした男に対し、煽りを含んだ発言をぶつける。
やるだけやっといて、今さら逃がさねえぞ。
「それもそうか、ここで負けたら恥ずかしいもんなぁ?」
「先輩~、そんな訳ないじゃないですか。それじゃまるでこの先輩が、一方的にいたぶるのが大好きな鬼畜変態ってことになっちゃいますよぉ?」
「おっと、これは失礼!」
俺の言葉に乗っかり、イリスも嘲笑を浮かべながら侮蔑の言葉を吐く。
こいつ、意外とノリいいな。
そんなことを想いながら笑い合う俺たちの姿に、男は顔を真っ赤にして怒り出す。
「こ、後悔するなよッ! そんなに痣だらけになりたいのなら、お望み通り傷物にしてやるッ!」
「はいはい、頑張ってな~」
こいつはもう、罠にかかった獲物だな。
俺は適当に言葉を吐くと、ぐるりと周囲を見渡した。
気が付けば辺りは騒然となっており、ざわざわとした言葉と視線がこちらに集中している。
まぁ、んなことはどうでもいい。
「ホーネス!」
「はい、ここに」
声高らかに名前を呼ぶと、人混みの中からホーネスが姿を現した。
「この子を頼む」
「承知しました」
ホーネスは恭しくお辞儀をすると、倒れている少女に向かって手を差し伸べる。
そして、その凶悪面からは似つかわしくない優し気な声色で口を開いた。
「お嬢さん、お名前は?」
「カ、カミュと申します」
「カミュ様、いいお名前ですね。お手をどうぞ」
「あ、ありがとうございます…………」
紳士的な振る舞いでカミュの手を取るホーネス。
あいつ、絶対坊主頭じゃない方がいいのにな。
心の底からそう思う。
「イ、イリス様……!」
連れられていくその直前、カミュはイリスの名前を呟く。
その言葉には、申し訳なさと心配が入り混じった複雑な感情が込められていた。
そんな様子のカミュに対し、イリスは自信満々に微笑んで親指を立ち上げる。
中々粋なところあるじゃん。
「さぁ、観衆は離れてくれよ! 巻き込まれても知らねえぞ!」
周りに声をかけると、生徒たちは慌てて後ろに下がっていく。
そうして生まれた、広い円形の空間。その中央に対峙する、二人の騎士。
「では、宣誓をどうぞ?」
「…………聖キャバリス学院3年、モラドの名のもとに。学院決闘を受諾する」
男の口上を聞き、イリスは納得するように頷いた。
そして同じように口を開く。
「聖キャバリス学院1年、イリスの名のもとに。学院決闘を受諾します」
「今ここに、両者の決闘受諾を聞き入れた。貴殿らはこの闘いに何を望む?」
「そこの生意気な小娘の土下座だ」
「二度とカミュ……あの少女に近付かないでください」
それらの言葉に対し、俺はゆっくりと頷く。
まぁ学院決闘じゃ、せいぜい望めるのはこの程度だわな。
「立会人、クルードの名のもとに承認する。あとイリス、一応神聖な決闘なんだ。あんまり汚い言葉を使うな」
「…………すいません」
ブスッとした表情を浮かべ、イリスは小さく謝罪を述べた。
だが、その視線はずっとこちらを向いている。
しかも、何故だか訝し気な視線。
失礼な。俺だってまじめにやる時はやるさ。
「……コホンッ! では、両者構え」
誤魔化すように咳を一発。
二人はその言葉にゆっくりと剣を抜いていく。
イリスが正中線に構えるのに対し、男は後ろ足を下げて片腕で構えを取る。
どちらも学院内ではよく見る構えの代表格だ。
だが、構えだけで差が出る訳では無い。
「己の誇りを守らんとする若き騎士よ。今ここに――――」
全ては使い手の技量によって決まる。
故に、結果は必然。
強き者が、勝利を手に入れる。
「
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