第5話 ネームタグ

 人にとって大切なものの一つは名前のように思う。そう言って、ある日の国の偉い人は私たちに名前を隠すように言った。

 名前を隠された私たちは普段そっけない自由な名前で自分を表現することになった。ただ、私治たちの体にはネームタグがついている。

 自ずとそれを隠すようになった私たちにとって、そのネームタグはとてもセクシーなものだ。ただ、パートナーにしか見せてはいけないそのネームタグを見せるようなことは基本的にリスキーで見る見られると一生その二人でいることを義務付けされてしまうのだ。だから私たちは脱ぎ着ですら気を使って生活している。

「あいつ、いるだろう」

「ああ、名前を隠さないやつ」

「あんなのAVでしか知らなかったぜ」

 私はくだらないなと眺めている。名前を隠さないだけなのに。本当の自分で自分を表現したいだけなのに、それをエロと当てはめるなんて。

 私の崇高な思いを理解していくれる人もたくさんいる。それは若者やずっとそれを守ってきた人たちではなくて、海外の人たちが多い。

 だってなんであんなに縛られなきゃいけないの。なんで同じような名前で数字やアルファベットで自分を表現しなきゃいけないの。私は自分を愛している。名前を愛している。自分の名前を自分の愛している人たちみんなに言ってもらいたいわ。

「長いものになんて巻かれたくないのよ」

 正しさなんて知らないけれど、私や他のネームタグを背負っている人たちみんなで名前を大事にできたらと思う。親の愛があるのだから。私は最初で最後につけてもらった私の親の愛をもっと大事に享受したいのだ。

 きっと、私は上手く生きられないけれど、きっと、私にとっては悪くないものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る