友達
その後、私たちは渦の重複区間を過ぎたあたりで、一時停車し、車両点検も兼ねてラーメン……もとい救援車の到着を待った。
意識を取り戻したサリー少尉は、私の活躍を聞いて、ハンカチを噛んでいたという。
任務に戻った彼女は、私がうっかりセーフモードから戻し忘れた運用主任用コンソールを見て、たいそう驚いたらしい。
「え~?! 私のコンソールに何したの!?」
クレイ中尉がイタズラ少年のような顔で耳打ちする。
「あいつ、コンソールにすりすりしてたぜ」
カエルム船長もそれに同調する。
「ああ、至福の表情で涎を垂らしながら頬ずりをな」
「そうなんですね~。ヒカリ少尉とは、あとでじっくり話し合う必要がありそうですね~」
サリー少尉は満面の笑みで、暗黒オーラを漂わせていたという。正直、その場にいなくて助かったと思う。
残務が終わり、自室に戻った私は、いつものようにベッドに倒れ込んだ。まだ興奮が冷めやらない。楽しかった。仲間達と死線をくぐり抜けるのがこんなに楽しいことだとは思わなかった。
「ふへへへ~」
掛け布団を抱きしめながら、狭いベッドをゴロゴロする。
下段のルナから抗議の声が上がる。
「いい加減、静かにしてください。私は疲れてるんです」
「いいじゃん、楽しかったんだから」
「……ほんと、どうかしてますよ。少尉は」
「かもね~」
クレイ中尉の言葉を借りれば、私はオタク最終処分省の役人だから、その辺は仕方ないのである。
しばらくの静寂の後、ルナは呟くように言った。
「少尉……私は本当に怖かったんです。手を握っていてもらえなければ、きっと私は正気を保っていられなかったと思います」
「それは多分私も同じかも」
「いいえ、違います。少尉は最初から正気じゃありません」
「言うね~」
頂きました。ルナがツンケンしてないと、生きていけない身体になっております、私は。
でも今日のルナの声は少し覇気がない。
「……私、もう後悔したくありません」
「じゃあ、コ――」
「コンジットの音は楽しめないです」
「じゃあブ――」
「ブロック崩しには興味ないです」
「先回りやめてぇ~」
「少尉の趣味は特殊すぎて私には理解できません。一緒に楽しめるものがいいです」
「じゃあ一緒に探そっか。明日から」
「はい」
「……もし何も見つからなかったとしてもさ、友達でいてほしいな」
「……当然です」
私は壁に耳を当てる。もしかしたら、ルナもそうしているのかもしれない。
――シャン、シャン、シャン、シャン……。
いつも通りのコンジットの音がした。
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