通番第一号
――乗務日誌 Z時間 二四一三年九月八日 一七〇〇時記入
――古来より船乗りはその航海を通じて家族になると言われているが、まさか初めての火星有人ミッションでこのようになるとは思わなかった。私がエスプロリスト号の船長としてこれを記入できることを誇りに思う。
――住民情報登記法第三百八十二条第二項、地球アストロ・レールウェイ公団法第七十八条、及び同施行令第百八条第一項第六号の規定に基づき、記入する。
――火星周回軌道上において、ヒカリ・サガ少尉は、ルナ准尉の姉となり、ルナ准尉はヒカリ・サガ少尉の妹となることをそれぞれ宣言した。
「ハッハッハ、君たちの人生はジェットコースターのようだな。これで良いかな?」
カエルム船長はそう言って、電子署名入りの乗務日誌の謄本を電子交付してくれた。この制度を利用するのは我々が初めてだから、通番は第一号だ。
「ありがとうございます! おほ~第一号~」
「ありがとうございます、船長」
これを登記書類の添付資料として地球の登記所に送れば、晴れて登記されることになる。送付についても船長に依頼したので、数時間後には受理されるだろう。しかし、登記の完了を待たずとも、法的効果は今から生じる。
「私はどうお祝いすれば良いかな? 同僚の結婚はよくあるが、義兄弟的なものは経験がなくてね。規則上は、立食パーティーぐらいなら船長主催で開けることになっているが」
船長の問いに、私は言葉に詰まった。そういえば何も考えていない。
「うーん、どう思う?」
「お祝いは必要ありません。ヒカリ少尉とは、ただ生き別れの姉に出会えたようなものです」
「私もそうですね。隠すわけではありませんが、個人的なことなので……私達も正直分からないんです。例えば、有名な歴史的な逸話では三国志の『桃園の誓い』などがありますが、あれが結成パーティーみたいなものかというとちょっと違いますからね」
「三国志――」
船長の目がキラリと光る。
あ、しまった。面倒くさい三国志親父スイッチを押してしまったか。こんなところに伏兵がいるとは、何たる計略……。
私の警戒が伝わったのか、船長はそれ以上三国志には触れなかった。さすが我が父とは違い聡明な船長である。
「では、君たちを火星に送り出す壮行会に予算を回すっていうのはどうだろう。立食形式なら、個人的にお祝いもできるだろうしな」
船長の提案は、しっくりとくるものだった。
「そうですね、それなら」
「はい」
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