窮地
私は窮地に陥っていた。
答えられる問題はすべて答えた。けれども、それらが全て正解だったとしても、まだ合格ラインに達していない。私の苦手分野の問題が想定以上に多かったのである。
試験問題は各分野からランダムに出題される。しかし、一様乱数に従う乱数生成器を使用しているとしても、一様分布になるのは数千サンプルからの話であって、五十問程度であれば多少偏ってしまうことがある。その上、得意分野でもやたらと面倒くさい問題が出題されたりする。
ちょっとぐらいは手心があるだろうと思ったが容赦がない。これは想定外だ。
……恐るべし基礎能力試験。
「次図のように、定滑車Aと動滑車Bが設置されており、動滑車Bには百Nの物体Cが吊り下げられている。この装置においてロープを手で引くとき、物体Cを持ち上げるために必要な力を求めよ。ただし、ロープと滑車の質量及び摩擦は無視できるものとする。」
まぁ、これは実質的に暗記問題だ。
「任意の整数の二次元配列Aと、整数の一次元配列Bが与えられる。配列Aはn行×n列のサイズであり、各要素$A_ij$は都市iから都市jまでの所要時間を表している。配列Bは要素数nの訪問するべき都市番号のリストであり、各要素に重複はない。所要時間の合計が最小になる訪問順序かつ始点の都市番号よりも終点の都市番号が大きくなるよう配列Bをソートして、合計所要時間及びソート済みの配列Bを出力せよ。ただし、総当たり法を用いてはならない」
これは本来は私の得意分野であるが、この問題は暗記問題と見せかけて、一般的な巡回セールスマン問題とは異なる……ように見せかけて一般的な巡回セールスマン問題のような気がする。
始点への帰還を前提とせず、なおかつ始点と終点さえ固定されていない。始点と終点の組合せは全探索しなければならないが、題意としてはそれはダメなのだろう。となると……普通に定石通り動的計画法で巡回セールスマン問題を解いてから、順路上の隣接点の所要時間が最も大きい都市を始点と終点にすれば良いのか? それで行けるのだろうか。いや、何かダメそうな気もするぞ。
外れ問題の臭いがプンプンする。とりあえずパスだ。後で解こう。
「火星の地下で採取された硫酸銅(Ⅱ)の水和結晶のサンプルがある。この水和結晶のサンプル二五〇グラムを加熱すると、一六〇グラムの無水物が残った。このサンプルが含む水和水と無水物のモル比から、サンプルの水和結晶の組成式を求めよ」
モル……。
モルル………。
モルルン…………。
一刻一刻制限時間が迫る中、ついに、私の集中力は途切れてしまった。
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