対峙
『ヒカリ・サガの火星転属を承認しないとは、どういうことなんですか!?』
船長室に通信機からの怒声が響いた。ヒステリックに抗議しているのは文化技術復興省の大臣だ。一方の船長は、余裕の笑みを浮かべる。
「ハッハッハッ、やり方を間違えましたな、大臣殿」
『やり方ですって?』
すると、船長の顔から、突然笑顔が消えた。
「様子がおかしいので話を聞いたのですよ。彼女はハイブリッドだからという理由で仕事を押し付けられたと感じ、深く傷ついています。そのような事情を知った上で、私が承認するとお思いか」
『ッ……!? 私は断じてそのような事は一言も申し上げておりません』
「でしょうな。そんなことを言えば大問題だ」
『本人が任務を拒否しているのですね』
「いいえ、それでも彼女は『我が儘で迷惑をかけられない』と言っていますよ? しかし、彼女は今や、私の大切な部下ですからな」
『それなら、あなたが勝手に騒いでいるだけではありませんか。本人が勘違いしているのですよ』
「ふむ。しかし、我々としても、優秀な内部候補者以外の者を採用しなければならない理由として、そういうことだと伺っておりましたがね。まさか、本人の意思を丁寧に確認なさっていなかったとは」
『……』
大臣は咄嗟に言い返せない。プロパー職員のルナ准尉ではなく、あるいは他の内部候補でもなく、部外者の私を割り込ませるということには、色々と政治的駆け引きがあったのだろう。アストロ・レールウェイが引き下がるカードがあるとすれば、私がハイブリッドであることぐらいだ。
「百歩譲って、それが我々の度が過ぎた忖度だったとしましょう。しかし、大臣。覚悟とは自分でするものなのですよ。他人に強いられてするものではない。ましてや国益や社会の発展を人質にして強要するものではないのです。我々の仕事は明日、いや数秒後の命も保証されていませんからな」
『んまぁ、人聞きの悪い。強要だなんて。私は事実を述べて、提案したに過ぎません』
「いずれにせよ、もし本人が納得していないならば、アストロ・レールウェイの始まりが、こんな不名誉なことであってはならない。これは総裁も申しております。何よりも、我々には部下を守る義務がある」
『この件は内閣評議会に報告いたします。覚えておきなさい。あなたは政府の顔に泥を塗ったのよ』
「どうとでも。こちとら泥臭く仕事をしている者でね」
『ふんっ、通信終了!』
通信が切れたのを確認した瞬間、船長は普段の
「Woo-hoo! 政府の顔に泥を塗ってしまったぞ! ハッハッハッハッ」
まるで、サプライズパーティーで先陣切ってノリノリで飛び出してくる親戚のおじさんのようだ。とんがり帽子を着け、手にクラッカーをもっていてもおかしくない。
しかし、傍から聞いていた私は、気が気でなかった。
「……本当に良かったんでしょうか? ご迷惑が掛かってしまうのでは」
「良かったのだよ、これで。我々は不名誉な仕事をせずに済む。ルナ准尉、君のおかげだな」
「それほどでも……あります」
ルナ准尉は平常運転である。
「公式記録に残った以上、政府とて無理強いはできまい。まあ、少なくともしばらくは時間を稼げるだろう」
とはいえ、お上に楯突くような公式記録は、カエルム船長の今後のキャリアにおいてデメリットも大きいはずだ。私には感謝しかできない。
「本当に感謝します。ありがとうございます」
「それでだが、ヒカリ少尉。我々は本船のクルーとして君を迎え入れる用意がある。もちろん、君は火星勤務を志願することもできる。火星到着までの七日間、じっくり考えてくれ。ヒカリ少尉、
「はい、
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