決意
「――それで、どうするんですか?」
ルナ准尉は、下段ベッドから話しかけてきた。
「まだ分からないけど、私は志願しようと思ってる。志願理由は考え中」
「よかったですね」
「ありがとう、ルナ」
「……。気安く呼ばないでください」
「ごめんごめん」
静寂が訪れる。どことなく心地の良い静寂だ。窓には青い星が輝いていた。やっと私は純粋な気持ちでこの美しい光景を眺めることができる。
……そのために、私はどれだけ多くの人に迷惑を掛けてしまったのだろうか、と恥ずかしくなる。けれども、私のことを大切に思い、私のために理不尽と戦ってくれる人がいる。そのおかげで私の心は救われたのだ。その恩に報いることはできるのだろうか。
再びルナの声が聞こえる。
「……少尉、三つだけいいですか?」
「何でも言いたまえ、准尉殿~」
「一つ目。志願する気があるなら、基礎能力試験の対策ぐらいしておいたほうが良いですよ。試験合格が志願の要件ですから」
「ええー!?」
「やはり知らなかったんですか」
「早く言ってよぉ」
「私は余裕で満点でしたよ。私、頭が良いので」
「私は頭が悪いのでー!」
いーだ。
「……私が教えてあげなくもありません」
「お願いいたします、准尉様!」
「明朝六時起床、いいですね」
「了解!」
もはや私たちの間の上下関係は確定してしまったようだ……。
「二つ目。泣いたり喚いたり。あんな格好悪い姿は、見せないでください。私以外には、絶対に。み、皆の士気に関わりますから」
「うん。……ん?」
んん……『私以外に』とは?
「三つ目。火星に行きたいなら、本気を見せてください。……私の同志なんでしょう?」
「うん、ありがとう。頑張るよ」
彼女は一直線で火星派遣を志願してきた人物だ。もし私がこの任務から外れれば、彼女の着任も恐らくなくなるだろうことは、誰よりも理解しているはずだ。それなのに遠回りを厭わず、ここまでしてくれたのだ。
覚悟は決まった。
私は結局の所、私の趣味のためだけに志願することはないだろう。私は知らない人のために頑張ることはできない。今はまず、ルナのため、そして、このエスプロリスト号のクルーのため、アストロ・レールウェイの開業に尽くす。
「……本当に、ありがとね。いつかきっと、恩返しするから」
私の呼びかけには、答えがなかった。すぴーという寝息が聞こえてくる。もう寝ちゃったか。
私はコンジットの奏でる音と、彼女の寝息に耳を傾けながら、安らぎの中で眠りに落ちた。
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