12/24(土)

12/24(side:A)-前半

 あんなに緊張していた筈なのに、不思議と昨晩はよく眠る事ができた。きっと、ずっと心につっかえていた物が取れた事で精神的に安心できたのだろう。

 正直、私自身もまだ信じられていない。自分がここまで夢希の事が好きだっただなんて。今までダムでき止めていた感情が一気に流れ出したかの様な、一秒毎に気持ちが積もっていくかの様な不思議な感じだ。

 そんな感情に絆されてしまったのだろうか?今日私は普段着ないトレンチコートを引っ張り出して、前にクラスメイトから教えてもらっていた化粧も少しだけしてみていた。

 

 出発前に玄関の鏡で身だしなみを今一度確認していると母に声をかけられた。


「真央ちゃんどうしたの?そんなにかわいい格好しちゃって……それにちょっとお化粧もしてる……?」

「べ、別に……ちょっと遊びに行こうと思って……九時前には帰る」 

「ふーん……もしかしてお相手は夢希ちゃん?」

「っ……!」 


 母には友達と遊んでくるとは伝えたが、決して夢希と会う予定である事は話していない。その筈なのに……これが俗にいう母の力とかいうやつなのだろうか。恐ろしや恐ろしや。


「だったら何、別に私は……」

「真央ちゃん、お母さん応援してるからね!きゃあ嬉しい、お赤飯炊かないと!それよりもまず花さん(夢希の母)に連絡しておかなくちゃね!」


(なんでこの人が私よりはしゃいでいるのやら……)


 何故私達の親は皆ここまで頭の中がお花畑なのだろうか?



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 時間に余裕を持っておこうと(夢希を待たせないように)早く来たはいいのだが、どうやら早過ぎたようだ。現在時刻はちょうど十七時。約束の十八時まではまだ一時間もある。

 

(浮かれすぎていた……。第一、アイツは遅刻の常習犯だぞ?一時間も早く来たって……)


 はたから見れば、今の私は待ち合わせが楽しみ過ぎて早く来過ぎてしまう子供と大差ない。羞恥心に駆られ、校門の柱に寄りかかりながら体操座りの様に縮こまった。


「あれ……真央……?」

 

(何をやってるんだ私は……あまりに夢希に会いた過ぎて幻聴でも聞く様になってしまったのか……)


「え……おい、真央……だよな……?」


(ん……?二度も幻聴を聞くなんてことは流石に……)


 顔を上げるとそこには夢希が立っていた。


(待て待て、まだ心の準備が……!)


「なんで……まだ一時間あるのに……」


 何か言おうとして必死に考えて出てきた言葉が、どうみてもブーメランな件。


「いや……まぁ……気まぐれだよ。お、かわいいな真央、メイクしてんのか。それにそのトレンチコート、似合ってる」


(なんで気づくんだよ……バカ……!)


 やっぱり夢希は夢希だ。



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 気まずい心持ちのまま、商店街へと続く道をしばらく歩いていると、横を歩いていた夢希が急に立ち止まった。

 そのタイミングで、意を決して口を開く。

 

「「あのさ……」」


 どうやら夢希も何かを言おうとしていたようで、言葉が被ってしまった。


「え……」

「あ……」

「お前から言えよ」

「真央が先に言いなって」


 一瞬何とも言えない気まずい雰囲気になっていたのに、すぐにいつもみたいなやり取りになったことにお互い思わず吹き出してしまった。


(そうだった……私たちにはこれぐらいの距離感がちょうどよかった)


「夢希……」


(でも……私は夢希の事が好き)


 久しぶりに夢希の事を名前で呼んだ気がする。


「ん?」


 一度深呼吸をして、目の前にいる夢希を真っ直ぐ見つめる。

 昨夜考えていた筈の言葉なんてとっくに忘れてしまっていた。それでもいい。ただ、夢希にこの想いを伝えられるならそれで充分。


(だからもう、このままで満足なんてできない……!)


「私は……。私は、お前の事が好きだ!」


 急な告白に驚いたのか夢希は数秒間まるで金魚みたいに目を丸くして口をパクパクしていたが、しばらくして夢希は俯きながら静かに呟いた。


「俺も……きだ」


 確かに、「俺も好きだ」と聞こえた。


 心音がさらにうるさくなっていく。夢希も同じ気持ちでいてくれたと言う事が嬉しくてしょうがない。

 

 でも、そこで少しだけイタズラ心が湧いた。


「なんて?はっきりと言葉にしてくれないと分からないなぁ……」


 ちょっと意地悪っぽく、いつも夢希が私にしてきていたやり方を真似してみる。


(いつもの仕返しだ、バカ夢希)


 てっきりちょっと怒ってくると思ったのだが、その予想は外れた。


「俺も真央が好きだ!!」


 誰もいない街灯に照らされた道に夢希の声は強く響き渡る。


「はぁ……。お前、そんな大きな声出して恥ずかしくないのか?」

「いや、今のはお前がそう言わせた……」

「へぇ……。そっか、じゃあ本当は私の事、そう思ってくれていないのか……」


 夢希はちょっと意外そうな、むず痒そうな顔をする。


「お前なぁ……日頃から俺にダル絡みしてくるなって言って来てた癖に自分がやってどうすんだ」

「……好きな人にダル絡みしちゃ……駄目か?」

「別に……駄目じゃない……けど。俺もずっとしちゃってたワケだし……」


(それって……ずっと私の事が好きだったって事……?)


 夢希のダル絡み癖は昔からだ。という事は……。


(あぁ、もう……我慢できない!)


 もう、目を逸らさないで欲しい。今はちゃんと私を見て欲しい。

 私は夢希の胸に飛び込んだ。

 

「えっ、ちょっとおい……!」

 

 夢希は急な事に流石に困惑しているようだが気にしない。

 やっと手にする事ができた、この場所。もう絶対に手放したりなんてするもんか。


「……大好き」

「俺の方が好きだし」 

「お前よりも私の方がお前が好きだ!」


 またお互い笑ってしまった。今までの意地の張り合いと似ているようだが、今は全く違う距離感で全く違う理由だ。

 

 「……なぁ、真央。俺はお前に釣り合わないと思う。それでも、俺と付き合ってくれますか……?」

 「付き合うに決まってるだろ!それに釣り合わないとかそんなこと言うな、バカ!」


 そう言って夢希の胸に顔を埋めると夢希が抱きしめてくれたのが感覚でわかった。

 さっきまでは目を逸らさないで欲しいとか思っていたのに、今は顔を見ないで欲しい。自分でもよくわからない。今でも状況と私の精神状態は目まぐるしく変わり続けていた。


 

***

申し訳ございません!一話で収まり切りませんでした!なる早で後半もお届けします!


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