12/23(side:B)改
ニュースで今日はここ数日で1番の大雪になると言っていただけあって、夕方の下校路は歩道と車道の境目が分からなくなってしまう程に積もっていた。歩道の端に積み上げられた雪を見るに、昼間に雪かきをしても尚、これだけの雪が降っているのだろう。
もう少し早く帰ることができていれば路面状況はまだマシだったのかもしれないが、今朝も遅刻したので今日もお叱りから逃れる事はできなかった。
灰色に曇った空を見上げて更に憂鬱な気分になる。
俺には、最早何も残っていなかった。
ただ、真央と関われて、彼女の幼馴染になれて、彼女に恋をした。それだけでも今の俺は充分に生きた意味があったのだろう。きっと真央は健の告白を受け入れる筈だ。俺なんかよりもずっと頼りになるし、面白いし、面倒くさくないし……ともかく、俺が健に優っているところなんて一つたりとも無いのだから。
(……当たり前か。元々、俺は何もないただの出来損ないだしな……)
分かっていても、関わり続けてしまっていた。これが、間違ったやり方だいう事も、もう辞めるべきだという事も分かっていた。それなのに、いつまでも未練たらしく真央に縋り続けた。
そう考えると、今回真央に拒絶されたのはお互いにとって良い事だったのかもしれない。真央は面倒な俺から離れる事もできるし、俺もいい加減大人にならなくちゃいけないと気がつくことができた。
せっかくのこの機会を無駄にしないためにも、これからは真央に関わることはやめよう。元々俺が一方的に絡みに行っていただけだったのだから、俺が手を引けば簡単に疎遠になる事だってできる筈だ。
一度、そうした事だってあるのだから。
中学二年生の頃、一度真央から距離をとった事があった。当時、もう既に自分が真央に釣り合わない事に気がついていた俺は、迷惑をかけない為に彼女と関わる事を辞めてみた。四か月ぐらいは耐えられたが、結果として当時の俺がどれほど真央に依存していたかを思い知らされただけだった。
大丈夫だ、今度こそは上手くやれる。いや、やらなくちゃいけない。
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「お前どしたん、そんな暗い表情しよって」
突然、肩を叩かれた。そして、聞きなれた声と関西弁訛りの口調。
神楽坂健がそこにいた。
俺はいつのまにかボーっと河原に座っていたらしい。
肩に雪が積もっていた。
「健……?どうした?」
「お前、こんなとこで何してんねや!」
健はなぜか少々気が立っているらしい、なんか言葉の節々に棘を感じる。
「ハハハ……なんかちょっとばかし頭死んでたみたいだわ」
俺が馬鹿っぽく言うと、健は軽くため息をついた。
(あれ……?でもなんでコイツがこんな所に)
学校から健の家に行くのであればこの河原を通ると遠回りになってしまう筈だ。
「健、お前なんで……?」
「お前にちょっとばかり話したいことあってなぁ、家に行ったんやけどおばさんお前帰って無いって言うとって、ほんで学校戻ったらちさ姉は帰ったって言うとるもんやからなんか変やなって……」
どうやら心配をかけたらしい。
「ありがとな。あとごめん、迷惑かけて」
「馬鹿か!ダチの事は心配すんのは当たり前やろ!」
健は俺の胸を軽く殴った。
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俺は自分一人で帰れると言ったのだが、健がどうしてもと言うので俺は送ってもらう事にした。どうやら「ちょっとばかり話したいこと」もあるらしいし……。
「んでお前なしてあんなところおったん?」
「あぁ、なんかボーっとしててな。特に意味はねぇよ」
「ふーん、まぁええわ。心配してやったから今度うまいもんでも奢ってくれ」
少し癪ではあるが、実際心配をかけたのも事実だった。しょうがない、今度なんか奢ってやるとしよう。
「で……どうだったんだよ……真央のこと」
いつまでも無駄話をし続けるつもりはない。昨日の今日だ。「ちょっとばかり話したいこと」なんて一つに決まっている。
「ん〜、振られたわ」
まるで昼食に何を食べたか聞かれた時と同じ様な軽々しい報告に俺は少し拍子抜けした。
「え……?」
「だから、振られたんやて」
悲報、幼馴染が振られたショックでおかしくなってしまったんだが。
(あとでネット掲示板にこのスレタイでスレ建てようかな……)
「いや、ショックも受けとらんし、おかしくもなっとらんで?んで、それを勝手にネットに晒そうとすな」
「あ、ごめんなんか……」
「で、お前はいつ告白するんや?」
「え?」
突然、予想していなかった言葉が出た事で少し動揺する。
「だから、お前はいつ告白するんかって聞いとんのや」
「……しねぇよ」
「いや、おかしいやろ」
「……は?」
さっきから言っている事が本当に意味不明だ。まるで一貫性が見えない上に、別にどうしようと俺の勝手だと片付けられる様な話ばかりをしてくる。
「俺は真央から面倒な幼馴染としてしか認知されてない」
「ほーん……まぁええわ。じゃあお前はやっぱり聞いてないんやな……)」
健は急に哀れそうな顔をした。
「は?何を聞いてないって?」
少し口調がキツくなる。
「いや、でもこれだけは夢希に喋らないでって真央から言われてんのや」
「なんだよ、言えよ。勿体ぶんな!」
「んーでもなぁ……別に夢希が真央に告白する気無いんなら別に必要ない情報やと思うし……」
健はわざとらしく両手を頭に当てて考える様なポーズを取った。
(ちっ……コイツそこまでして何を隠してんだ……?)
「あー言えん言えん……真央が年明けに県外に引っ越してまうだなんて俺には言えん(大嘘)!」
「は……!?」
(引っ越す……真央が……?)
「真央が年明けに県外に引っ越してまう」その言葉が脳内で何度も何度も回り、それと同時に、真央と過ごした今までの日々が走馬灯の様に巡り始めた。
「ゆめくん、今日は何して遊ぼっか?」
「私達最高の友達だね!」
「ゆめくんのばか!それ私のおやつ」
「見てゆめくん!ランドセル買ってもらったの!」
「ゆめくん、小学校楽しみだね!」
「見てみて!徒競走1位だったよ!」
「中学校に行っても、遊ぼうね!」
「数学むずい〜、ゆめくんもそう思うよね?」
「ねぇ、ゆめくんなんでこの頃私の事避けるの?」
「ずっと友達って約束したじゃん、馬鹿!」
「お前……こんな問題も解けないのか?」
「なっ!別に誕生日なんて祝わなくていい」
「お前大丈夫か……?このままだと受験やばいだろ……はぁ、しょうがない教えてやる」
「高校生になってまでそんな事を……お前は馬鹿なのか?」
「放っておいてくれ。今日はお前とは話したくない」
笑った日も、喧嘩した日も真央はずっと幼馴染でいてくれた。離れないでいてくれた。それがどれほどありがたい事なのか理解する事に、だいぶ遠回りしてしまった気がする。
「なんでそんな大事な事もっと早く言わないだよ!!」
目から汗が出ているが、今はそんなことはどうでもいい。
「言わないかんこと、あるんやないの?下手したら……いや、下手しなくともこのまま行くと今回が真央と過ごせる最後のクリスマスイブになるで?」
「っ……!」
どうするべきか、そんなの最初から分かっていたんだ。本当は。
「健……いいのか?」
「俺はかまへんよ、なんたってお前の幼馴染やからな!その気持ち……真央に思いっきりぶつけたれ!」
###
(真央はクリスマスイブに予定がないそれはこの前の一件で知っている。だが、どう誘うか……)
健から何を送るべきなのか考えてスマホの画面と睨めっこしていると、急に真央からメッセージが来た。
真央「お前、明日暇なんだろ?」
ジャストタイミング。んで、ちょうど話そうと思っていた内容。
(仕組まれてるのか……これ?)
少し不安にはなったが、今はそんな事を考えている場合ではない。トーク画面を開いておいてしまっていたのだ、すでに向こうには「既読」がついている筈。
夢希「ああ。お前もだろ」
真央「うん。クリスマスイブの商店街覚えてるか?」
クリスマスイブの商店街とは、毎年クリスマスイブに街の商店街が開かれるお祭りの様なもので、小さい頃は真央や健といった友達とよく行ったものだった。
夢希「あー、よく行ったな」
「良かったら一緒に行かね?」その言葉が真っ先に閃いた。
(断られたら……いや、もうこれを逃したらもう……!)
夢希「あのさ」
(落ち着け貴岡夢希、お前はやりたい事をやれ!!)
真央「何?」
夢希「明日、良かったら一緒に行かね?商店街」
心音が異常にうるさい。その上、中々返信が来ない。
少し諦めムードに入り始めた頃、返信は来た。
真央「しょうがない、クリぼっちのお前が可哀想だから行ってやる。十八時に高校校門前にて待つ」
その場で小さくガッツポーズをしながら俺は返信を打つ。
夢希「了解。楽しみにしてる」
(あれ……送信した後に言うのはアレだけど……文面キモくね……?)
少し気になったが、そんな事は今はいい。
明日、俺と真央の関係性が完全に壊れるのか、変化するのかは分からない。
それでも、後悔だけはしたくないと思った。
***
皆さんこんばんは、錦木です……本当に更新が遅くなってしまい申し訳ございません……!
この物語もあと少しですので今しばらくお付き合いいただけると嬉しいです!
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