12/23(金)
12/23(side:A)
今でも鮮明に覚えている。中学二年生の頃、夢希が一切口を聞いて来なくなった時期があった。
それまでは喧嘩する度に、こんな奴いなければいいと思っていた。だが、本当に大切な物は失ってしまってから、初めて気が付くことができる。ただ、喧嘩して、冗談を言い合って、笑い合って。そんな何気ない日常がどれ程かけがえのない物だったのか、私はその時になってやっと分かった。
毎日、日に日に世界から色が褪せて行くかのようだった。誰一人として話す相手もいない。毎朝一人で登校し、何も無いままに家に帰る。そんな往復日々が続いた。
ずっと私は友達が多い方だと思いこんでいた……いや、実際多かった筈だ。だが、私は夢希以外の人とは良くも悪くも広く浅い付き合いしかして来ていなかった。
特別仲のいい友達も、特別仲の悪い人も私には居なかった。そう、私は夢希を中心に世界を考えていた。私達はお互いにとって初めての友達にして、唯一無二の存在、そう考えていたのはどうやら私だけだったようだ。
夢希が私を避けるようになった理由は考えてみたら、至極単純だった。
それまで気づいていなかっただけで、夢希はとっくに大人になっていたのだろう。だから、いつまでも子供だった私から夢希は離れて行ってしまった、ただそれだけ。
そう気がついてからは、それまでは大嫌いだった勉強も頑張ったし、夢希に依存しすぎないように色々な人と関わるようにもしたし、夢みがちでお気楽な性格だって、子供っぽい私を消す為に頑張って矯正した。
その頃には夢希もまた徐々に声をかけてくれる様になっていたし、喧嘩だってまた出来るようになった。全ては、夢希の腐れ縁の幼馴染であり続ける為にやって来た事。
なのに、それなのに……。
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結局、昨夜もあまり眠ることができないまま時間だけが過ぎて行った。
今日は土曜日、つまり午前授業の日なのでどうにかなったものの、いい加減勉強にもかなり支障が出て来ている。根本的な原因……夢希との事を解決したい気持ちは山々なのだが、夢希と上手く話す事が出来なくなってしまった今、それは難しいように感じる。
そんな事を考えながら廊下を歩いていた私は、少しフラついてしまった拍子にバランスを崩し、数字の先生から職員室へ運ぶように頼まれていた冬季休暇中の課題プリントを盛大に廊下にぶち撒けてしまった。
今日何度目なのか考えたくも無いため息が漏れた。
冷たい床に膝をつき、散乱してしまったプリントを一つ一つ拾っていく。
(私が言わなかったらどうせ夢希はこれもやり忘れてくるんだろうなぁ……)
また夢希の事を考えている自分に呆れていると、前から誰かがこちらに向かって来ているのが見えた。一瞬、それが夢希なのでは無いう考えが頭を過るが、すぐに振り払う。夢希はさっき坂本先生に朝の遅刻で連行されていた。こんな場所にいる筈がない。
「よっ!大丈夫か?」
この地域では耳にすることの少ない関西弁の訛りが効いた、夢希とはまた違う陽気な声。顔を上げた先には夢希では無かったものの、見慣れた人物が立っていた。
「……健か。どうした?」
神楽坂健、保育園に通っていた頃からの私と夢希の友人であり、私の知り合いの中では唯一、日常的に関西弁を使っている人物だ。
彼は屈んでプリントを拾うのを手伝い始めてくれた。
「廊下を歩いとったら次期生徒会長最有力候補が困ってそうな所をお見かけしたもんやから、せっかくの機会に胡麻でもすっておこうと思うてな〜。んで、はいよ」
拾ったプリントを差し出しながら意気揚々と胡麻をすってる発言はどうなんだ……。
「ありがとう……で、実際は?」
夢希は神楽坂の事をお気楽な天然だと言うが、実際はそんな事は無いく常に周りの状況を見て物事を上手く判断ができる、空気が読める人物だ。そんな奴が何の目的も無しにこんな変なことを言う筈がない。
「んー、ちょっと話しておきたい事があるんやけど、今大丈夫か?」
(何だ……?)
「まぁ……これを職員室に出した後だったら構わない」
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あの後無事職員室にプリントを届けた私は、神楽坂に連れられて近くのファミレスに来ていた。
「実はな、俺昨日夢希とここ来てん」
急に夢希の名前が出て来た事で少し驚く。
「そうか」
「なんや、興味あると思ったんにな〜」
「くだらない冗談はいい。要件は何だ?」
わざわざ夢希の話を出してくる辺り、何かあるのだろう。
「昨日夢希にも伝えたんやが……真央、俺はお前が好きや!俺と付き合って欲しい……!」
「……は?」
話の流れが全く読めない。夢希に関する話かと思いきや、突然の告白……。
(あれ……なんで私今また夢希の事を……)
「なーんてな。アホか、嘘に決まっとるやろ。俺はお前の事幼馴染としてしかみてへん。それよりお前今、夢希の顔が過ったやろ?」
「……え?いや、別に……。それよりお前はさっきから何がしたいんだ?」
さっきからコイツは一体何なのだろう?嘘告白をしてみたり、そうかと思えば夢希の話を持ち出したり……。
「坂本先生……いや、ちさ姉にお願いされたんよ、「アイツらいつまでもくっ付きそうに無いからちょっとちょっかいを掛けてやって欲しい」ってな」
(え、ちさ姉が……?なんで?)
「ちさ姉……また余計な事を。何度も言っているが私とアイツは腐れ縁の幼馴染であって……」
「だから、そうやって毎度毎度夢希にこだわってるのが恋だって言うとるやろ」
私の言葉を封じ込めるかのように神楽坂はそう言った。
「よく思い出してみぃや、今までの自分の行動、その時の感情全部合わせて考えてみ?」
(……この感情が、恋だって……?)
確かに今まで他の人達に感じていた嫉妬も、もどかしさも、独占欲も、恋だと考えると説明がつく。 一つ一つの出来事を思い出していく度に自分の心音が急激に跳ねあがっていくのが自分でもよく分かる。
まるでずっと栓で塞がれていた水が流れ出すかの如く、この感情が恋だったのだと自覚した途端、気持ちが溢れ返りそうになった。
(関係性が変わってしまうかもしれないのはまだ怖い。でも、この気持ちに気がついた今、このままこの気持ちを抱えたままで「腐れ縁の幼馴染」には戻れない……!)
ともかく今はこの気持ちを胸に仕舞い込んだまま、夢希と今の関係のままで関わり続けるのは無理だと思った。それが恋人という形にならなかったとしても。
気がつくと私は神楽坂に頭を下げていた。
「神楽坂、協力して欲しい。この気持ち、きちんと伝えたい夢希に……!!でも私一人だと出来ないと思う、だから……」
神楽坂はいつものようなとびきりの笑顔で親指を立てる。
「流石判断が早いな。おう、任せい!俺もお前の幼馴染やからな!」
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午後七時、意を決して「Fine」を立ち上げた。
神楽坂が出してくれたプランを今一度思い出す。
明日の夜、高校前に「昔よく一緒に行ったクリスマスイブの商店街に一緒に行きたい」という名目で呼び出し、自分の気持ちを伝える。
(よしっ……)
一度深く深呼吸をし、あらかじめ考えていた文面を送信した。
真央「お前、明日暇なんだろ?」
すぐさま答えが返ってきた。
夢希「ああ。お前もだろ」
真央「うん。クリスマスイブの商店街覚えてるか?」
夢希「あー、よく行ったな」
「良かったら、一緒に行かない?」と打ちたいのに指が動かせない。
怖い。もし断られたら……もしこれでまた、夢希と疎遠になってしまったら……。
なにも出来ないまま2分近くが経過した頃、夢希の方からメッセージが届いた。
夢希「あのさ」
言い出す事が出来なかった自分を責め、どう切り返すかを考えながら返信を打つ。
真央「何?」
次に送られて来た文面を見て、私は息を呑んだ。
夢希「明日、良かったら一緒に行かね?商店街」
(っ……!)
対面でやり取りをしてるわけでも無いのに、顔が赤くなって行くのが分かる。「行きたい」と一度打ち込むも、送信ボタンが押せない。
再び深呼吸をして息を整え、文面を変更した。
(落ち着け……今はまだだ)
真央「しょうがない、クリぼっちのお前が可哀想だから行ってやる。十八時に高校校門前にて待つ」
夢希「了解。楽しみにしてる」
「楽しみに……してる……」
思わず、読み上げてしまった。
(私は明日、上手く立ち回れるだろうか?)
告白が上手く行こうと上手く行かまいと、どちらでもいい。ともかく、明日がどちらに転んでも新たな始まりになる事は間違いない。
***
更新おそくなって申し訳ございません、錦木です。
クオリティが相当低いと思いますが、後日修正します……
今の所はできるなら今日中にはside:Bを更新するつもりです。
因みにside:Aではわざと「馬鹿」と「バカ」を使い分けているので、よかったらお時間がある時にでも見比べてみてください。ちょっと面白いカモです。
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