12/22(木)

12/22(side:A)

 昨日あんな事があってせいもあって、今日はまだ夢希と話せていない。今朝は夢希の家にも行かなかった。

 ずっと私の幼馴染でいて欲しいという自分の気持ちには気づく事ができたがそれは所詮、私の自分勝手で一方的な感情に過ぎない。そんなことは分かりきっている。いつみたいに彼が離れていってしまうだなんて、私には分からない。

 感情の整理が上手く出来ないまま、ただ時間だけが流れるように過ぎて行く。

 すっかり分からなくなってしまった。今まで私はどうやって夢希と関わっていたのだろうか?どんな顔をして話せば良いのだろうか?彼はどんな私だったら離れて行かないのだろうか……?



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「……では静沢さん、ここの問題に当てはめるべき公式を答えてください。……静沢さん?」


 名前を呼ばれたことでハッとする。どうやらいつの間にかボーッとしていたようだ。


「すいません、ボーッとしていました」

「珍しいですね、静沢さん。体調が悪いなら保健室に……」

「いえ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」


 先生やクラスメイト達が困惑しているように、私自身も困惑していた。教室内にも微妙な空気が流れる。

 授業中に集中出来ていなかっただなんて、学級委員としてあるまじき失態だ。


 (私は何をしているんだ……学生の本業である勉学を疎かにしてしまうなんて……)


 昨日から常に頭の何処かしらで夢希との事について考えてしまうせいで何に対しても集中出来ない。昨夜はそのせいで勉強がいつもより捗らなかったし、ちゃんと寝れなかったせいですっかり寝不足だ。


「おいおい真央さんよー、俺じゃねぇんだから」


 突然、夢希がおどけた事で教室内に充満していた空気は一瞬にして笑いに変わった。

 

「おーい、そう言うのは家でやれよ〜」

「全く、夢希は本当にシズちゃんが好きなんだね」

「なんだ?夫婦は段々似てくるってか〜?」


 夢希は大人になった。それでも、バカな所といたずらが好きな所、そして優しい所は変わっていない。



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 終礼が終わり、学級委員の日課である学級日誌の確認を行っているといつものように夢希が話しかけてきた。


「真央、呼び出し速攻で終わらせてくるから一緒に帰ろうぜ?……って、お前大丈夫か、目の下にちょっとクマできてるぞ!?」


 話しかけてくると予想して心の準備をしておいたはずなのに、いざ心配そうに私の顔を覗き込んでくる夢希を前にすると私はどう対応したら良いのか分からなくなってしまった。

 さっきからずっと色々と話す内容を考えていたのに、昨日の事を謝ろうと思っていたのに……。


 気がつくと私は夢希を冷たくあしらってしまっていた。


「放っておいてくれ。今日はお前とは話したくない」


 一瞬、夢希が唖然とした表情をした様な顔をする。


 (しまった……!)


 訂正しようとするも、中々言葉が出てきてくれない。

 ようやく何か言えそうになった時、夢希はクラスメイト達に絡まれ始めた。


「なんだ夢希、浮気でもしたのか?奥さんご機嫌斜めじゃん」

「そんなんじゃねえし。お前と一緒にすんな」


 さっきの表情とは全く違う、いつもの陽気な夢希の表情がそこにはあった。

 騒いで、時には喧嘩して、時には慰め合って……かつては夢希の隣には私がいたはずだった。だけど、どう見てもそこにはもう私の入る隙は無い。

 

 (あぁ……と一緒だ)


 私は、嫉妬していた。夢希の隣で馬鹿話をする者に、笑いながら夢希の背中を叩く者に、いつも夢希に馴れ馴れしく話しかける後輩に、夢希の側に入れる彼の母に、夢希に言いたいことを言えるちさ姉に……。

 「そこは私の場所なんだ」って、声を出して言いたい。取り返したい。でも、きっと私にそんな権利はないのだろう。


 気まずくなってしまった私は、学級日誌を手にその場を後にした。



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 昇降口をくぐった先の景色は朝と大分違っていた。朝よりも白色が増した世界に雪は今も尚、白さを付け足ししている。


 (そっか……今朝のニュースで雪強くなるって言ってたっけ……)


 そんな中を、傘もささずにふらふらと歩く。

 夢希の隣に居られるように私なら、きっとこんな非合理的な事はしない。でも、今はそんなことはどうでもいい。


 私は未だに「ゆめくん」に縋り続けていた。

 置いてきたはずの幼さはまだ私の中に残っていた。反面、大人になった夢希の隣にいる為に身につけた筈の現実主義は、ただのメッキに過ぎなかったのだ。 

 

 

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 家に着いた頃には、私は雪でびしょ濡れになっていた。


 (早くお風呂入らないと……)


 やけに冷静になりながら玄関のドアを引くと鍵がかかっていない。おかしい、今朝は鍵を閉めてから家を出た筈だ。母と父も仕事中のはず……。

 少し警戒しながらドアを開くと、そこには見慣れた母の靴が置かれていた。


 (よかった……)


 安心していると奥の部屋から母が出てきた。


「あ、真央ちゃんお帰りなさい……って、どうしたの!そんなにびしょびしょになって……!」

 

 慌てて駆け寄ってくる。 


「お母さん……なんで……?」

「え?ああ、雪が強くなるって聞いたから午後半休を取ったの。帰って来れなくなったら困るから……それよりどうしたの?傘、忘れちゃったの?」

「うん……ははっ、ちょっとボーッとしてて……」


 言えない。傘を持っていたのにささなかっただなんて……。

 

「とりあえず、お風呂にでも入って体温めなさい」


 そう言うと母はそのまま私を脱衣所に押し込んだ。

 そのまま、なんとなく洗面台にある鏡を見てみると、確かに夢希の言う通り目の下に小さいクマができていた。


 (私でも気づいて無かったのに……なんで気づくんだよ、あのバカ)


 鏡に映る私はなぜか涙を流していた。



***

おはようございます。

18時にsideBを投稿いたします。

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因みに「おーい、そう言うのは家でやれよ〜」って言うのは自分が高校受験時に通っていた塾の先生の口癖だったりします。


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