第3話 引退勇者とメイド魔王の旅路 ~ドライデンの街~
帝国側に勇者を辞めたとは伝えていない。
この情報をどうにかして知らせないと、命を狙われ続けるわけだ。
今更引き返すのも面倒だな。
あれから、ずいぶんと歩いた。
また戻ろうとすれば日が暮れる。
夜中になってしまう。
「どうしますか、アトラス様」
「んー、仕方ない。この先にある『ドライデン』という街で手紙を送ることにするよ」
「帝国が支配するの街ですね」
「なんだ、知ってるのか」
「マップを持っているんです」
ぴらっと地図を取り出すヘリオス。
冒険者の基本にして、必需アイテムのマップ。しかも、世界マップか。
俺も持っていたが、かつての仲間に優秀な
でも今は必要だ。
これから、いろんなダンジョンを巡るだろうから。
「助かる。それじゃ、ドライデンへ向かうか」
「分かりました」
再び真っ直ぐ歩き、街を目指す。
ひたすら草原を歩いていると、ようやく街並みが見えてきた。
あの場所こそドライデンだ。
「到着だ。日が暮れるから、先に宿をとる。……って、お前金はあるのか?」
「ありません」
「ないのかよっ!」
「メイドですから」
「意味分からん」
「では、体で払います」
「払うなッ! ……仕方ない。俺が出してやる」
魔王を倒す旅路でかなり稼いでいた。金だけは無駄にあるのだ。
一人や二人養うくらいは問題ない。
街中を歩く。
活気があって良いな。遠くから聞こえる音楽。
路上には露店もいくつか点在する。
やがて見えてくる古ぼけた宿屋。
中へ入ると、受付にはお姉さんがいた。
「いらっしゃいませー。二名様ですかー?」
「そうだ。俺とこのメイドだ。とりあえず、一週間貸してくれ」
「お客さん、お金大丈夫です?」
「大丈夫だ」
「でも、一週間も連泊されるとなると10万ベルかベルリオーズ金貨一枚は必要ですよ~」
俺はふところから金貨二枚を取り出し、そのまま受付に。もう一枚はチップだ。
「これでいいかい?」
「ちょ……お客さん、お金持ちですね! まさか貴族とか?」
「元勇者ってところかな」
「えっ、勇者? もしかして、アトラス様です!?」
「そんなところだ」
「わぁ、ホンモノは初めてみました! カッコいいですね~」
受付のお姉さんは、目を輝かせて俺を観察してくる。そんなジロジロ見られると照れるのだが。
「一週間頼むよ」
「なぜ、そんな滞在されるんです? ていうか、世界を救った英雄ですよね。魔王を倒したのだから、今頃は帝国で讃えられているところでは」
俺だってそんな風に考えていたさ。
でも、それは夢と幻でしかなかった。
魔王が消えれば勇者は不要な存在でしかない。
残念ながら、帝国の……皇帝の意思では覆すことはできない。
「そのはずだった。けどこの世界に勇者はもう必要ない」
「そんな……アトラス様は、数々の強敵モンスターを倒し、幹部も全滅させたのに。それで救われた人たちがいるんですよ。おかしいです」
俺の為に怒ってくれる受付のお姉さん。
そうか、街の人たちは分かってくれるんだな。その言葉が聞けただけでも、俺は救われた気がした。
「追放されちゃったし、もうどうにもならないさ。それより、部屋のカギを頼む」
「分かりました。では、どうぞ」
お姉さんからカギを受け取り、俺とヘリオスは部屋へ。
宿屋の部屋は清潔感があり、とても落ち着いている。これなら、しばらくは快適に過ごせるな。
内装を吟味していると、ヘリオスが俺の目の前に立った。
相変わらず、とらえどころのない瞳だな。なにを考えているのか分からない。
見つめていると、ヘリオスは俺の服に手をかけて――って、なんだ!?
「ちょ、なんだ!」
「お部屋につきましたので、ご主人様の装備を外そうかと」
「触れるな」
「え…………でも」
しゅんとなるヘリオス。
いや、別に怒ったわけじゃないんだけどね?
「話は最後まで聞け。いいか、俺の装備は全身が“聖属性”なんだ。闇属性のお前が触れたら、一発で浄化されるぞ」
「そうなのですね。でもご安心を」
「なぜだ?」
「魔王の時はもちろん闇属性でした。ですが、今は違います。火属性です」
「そうなのか?」
じっと見つめてみると、確かにヘリオスの属性は『火』だった。
ちゃんと見ていなかったな。
レベルこそは『1』のようだが、全体的なステータスは高いようだ。まて、レベルとつり合っていないぞ。どうなっているんだ、この魔王は……いや、メイドか。
「お金を払っていただいた分、精一杯働きます」
俺の装備を丁寧に剥いでいくヘリオス。
浄化されないところを見ると、どうやら本当らしい。
「魔王ではないのか」
「わたくしは……残りかすです」
「そうなのかな」
「人間を襲おうとか微塵も思いません」
「信じられないな」
「信じてもらえるよう、努力します」
「……」
S級鎧装備・グレートオブザバトリーを外され、続いてS級ガントレットに。しかし、ヘリオスは触れようとして驚いていた。
「と、通り抜けてしまいました……なんですか、このガントレット」
「これは勇者専用のガントレットでエクスプローラー。ある長老ドワーフに作ってもらった
「なぜ触れられないのでしょう?」
「剣を扱う以上、腕を切り落とされるリスクがある。ほら、剣士なら相手の腕を狙うこともあるだろ。その対策がされている」
「なるほど、これなら腕が守れますね」
「そういうこと」
そんな和やかな空気の中、外が騒がしくなっていた。なんだ、パーティでもやっているのか?
窓を覗いてみると……帝国兵らしき兵士がこちらに向かっていた。……おい、まて、まさか……!
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