第2話 さらば帝国

 アルテミス帝国を遠ざかっていく。

 ヘリオスは俺の後ろを黙ってついていくる。

 大人しいな。

 けどいい。

 今のところ襲い掛かってくる気配もないし、そんな様子もない。なら、こちらも監視を続けるだけだ。


 しばらく草原を歩き続けていると、気配を感じた。


 これはモンスターではない。



「アトラス様、人間のような気配です」

「お前も察知したか。そうだな、明確な殺意を感じる。恨まれる覚えはないのだがな」


 聖剣・ホライズンズを抜いて周囲の様子を伺った。


 ――すると。


 足音と共に四人の影が現れた。


 顔から足まで全身黒い包帯でグルグル巻き。顔は分からない。



『……』


「なんだコイツ等。俺になんの用だ」



 しかし、敵は言葉を喋ることもなく、こちらに向かってきた。

 攻撃をしてくる以上は敵だ。


 俺は立ち尽くしたまま聖剣を振るい、斬撃を飛ばした。


 それだけで三体が一撃で真っ二つなって塵と化した。


 この聖剣は、邪悪な者に対しては10倍のダメージを与える。物理と魔法の聖属性攻撃を合せ持ち、三回攻撃を発動。更に、クリティカルの乗った範囲攻撃にもなるので強力だ。


 必中攻撃だから回避も不可能だ。



『ガァァァ……』



 消えゆく三体。コイツ等は人間でもモンスターでもないらしい。



「残ったお前、何者だ」

「…………おのれ、勇者め」



 ようやく言葉を発した。

 どうやら人間の言語は話すようだ。



「誰に雇われた?」

「こ、こんな話は聞いていない……! せめて、そこの銀髪の女だけでも殺してやる!!」


 俺の質問は無視か。

 必死に動く正体不明の人物は、狙いを俺ではなくヘリオスに変更した。


 俺が助けなくとも、ヘリオスは勝手に助かるだろう。


 剣をおさめて様子を見た。


 すると、ヘリオスは生き残った包帯野郎に手を向けた。


 魔王の煉獄が放たれ、それは瞬く間に包帯野郎を燃やした。



「ギャアアアアアアアアアア!!」



 容赦ないな。

 こういうところは魔王っぽいが。


 やがて包帯野郎は燃え尽きた。



「何なんだ、アレは?」

「これは帝国のニオイがしますね」

「なんだって?」


「見てください。この包帯男の残骸を」



 俺はヘリオスの指さす方向を見た。地面には『札』が落ちていた。……まて、これだけは破れることも、燃えることなく現存している。


 なるほど、特殊な札なわけか。


 ……ああ、思い出した。


 アルテミス帝国にはネクロマンサーがいるんだった。一度だけパーティに勧誘したことがあった。でも、断られて一緒に旅に出ることはなかった。


 これがあの男の仕業だとすれば納得がいく。



「恐らく、トーラスの造り出した人造モンスターだ」

「ということは帝国から命を狙われていると……」

「そうなるな」



 クソ、あの皇帝め……俺の命を狙わないと言っておいて、これか!

 結局、脅威となる者は排除しておきたいんだ。

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