第10話 未練
「「引っこ抜け」」
この指示にした理由は簡単である。甲殻類相手に殴る蹴るの効果は恐らくないに等しい。
ならば節を強化兵の腕力に任せて落としていけば良い。
「!!!っ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
蟹は声にならない奇声を上げながら暴れている。
奇襲は上手く行き蟹最大の武器である鋏を片方落とす事に成功した。順調に事が運んでいる。はずだった。
「あ、け、ろぉぉぉおおおおおおお」
足を押さえていたはずの強化兵の1人が山肌に吹き飛んだ。
「」
完全に首が折れている
想像以上の蟹の膂力に呆気に取られている隙に1人また1人と鋏に殴られ。ツメで腹を貫かれ強化兵が動かなくなっていた。
(まずいまずいまずいまずい)
「嘘…」
鈴音が急な状況の悪化に放心している。
強化兵の腕力で望んでも止められなかった怪力が減っていくに連れて。身軽に。自由になっていく。
「与一…?」
場違いな声にその場に居るはずのない人物の顔が浮かぶ。
「…は?」
「氷彩…なんで…ここに…」
「…ごめんなさい…与一と鈴音が一緒に居るの見て。居ても立っても居られずに跡をつけてきた…そしたら。二人とも山に入って行くし。変な蟹が人を…」
言い切る前だった…全ての強化兵の命を刈り終えた成れ果てが巨大な体躯に似合わぬ俊敏な足の動きで氷彩に向かう。そして鋏を氷彩の命を屠ろうと振り上げた。
(だめだ…間に合わない…)
これから自分に何が起きるのかを察した氷彩は与一の方へ向き直りニコッと笑うと未練の残らないようにただ一言に思いを込めた。
「…大好き」
「…ぁ…やめてくれ…」
地べたに頭を擦り付け額には血が滲み。
未知の生物に命乞いをするかのように懇願する。
「頼む…誰か…お願いだ…助けてくれ…」
ーーーーその時だった。
ガシッ。
そこには成れ果ての鋏を片腕で受け止める与一の姿があった。
「…」
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