第8話 前哨戦

「蟹を見つけた」


「…っ!!」


不意に訪れた大きめのサプライズに面食らったが詳細を聞く為に通話をかけた。


「もしもーし!与一君から電話してくれるとは思わなかったよ〜!」


「いいから蟹の事を話せ」


「ぶぅーっ!!!ほんっと現金だよね君!!!」


本題にしか興味がないのが伝わって機嫌が悪くなりつつもしぶしぶ詳細を話し始めた。


「…まず見つけたのはネット上のshort動画。

たぶん大学生くらいの人が見つけたのをアップしてる。今送るね」


添付されてきた動画には最初うぇーい系の典型的ダメ大学生が山でBBQをしてる様子が撮られていた。だが途中で1人が川を指差しカメラを向けた。そこにはこちらの様子を伺っているような巨大な蟹が映っていた。そして大きさに異変を感じた撮影者達の一心不乱に逃げる姿が映されて動画が終わった。


「ネットでは陽キャが再生数稼ぎたいだけとか言われてプチ炎上してる」


「…まぁ信じろって方が無理があるが。不憫だな」


「とにかく先手を打てるなら早い方がいいよ。移動されたら面倒だし」


「あぁ…わかってる」


「じゃあ、また明日ね!おやすみ!」


プツっと通話が切れた音がした。


「あぁ…おやす…明日?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…眠れない」


明日もしかしたらまた死ぬかもしれないと思うと言い知れない恐怖が目を閉じる度に襲って来る。


「はぁっ…はあっ…水…」


異様に喉が渇く。落ち着かない。コップに注いだ水を飲み干す。


「頼むから意識飛んでくれ」


誰に言うでもなく自分に言い聞かせた。


「…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…きて…与一。起きて…」


「うー…ん?なんで一緒に布団に入ってんの?」


「…気持ち良さそうに寝てずるいと思って」


起きたのを確認した氷彩は手櫛で少し崩れた髪型を整えると先に下の階に降りて行った。


「…おばあちゃん。与一起きた」


下の階で喋る声が聞こえる。


「さて…準備するか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昼休み


(今日が命日になるかもしれないのに、世の中は特に何も変わらずいつも通りなんだな…)


学校で1日過ごすと普段と変わらず過ぎていく時間に珍しくセンチメンタルに浸っていると氷彩がお弁当を持って近付いてくる。


「…ねえ与一、今日久しぶりにうち来ない?」


教室が凍りつく


《なんであいつだけ…》

《くっそうらやま…》

《もう殺してしまおう》

《キキィッ!ウキーッ!キッキキャ!》


「あんまり人前でそういう事言うなよ。

猿渡が野生化してるだろ。」


「ごめん…でも新しいゲーム買った…一緒にしたい」


「今日はちょっと用事あるからごめんな。また今度なら大丈夫だから」


「…む、最近なんか付き合いが悪い…」


(この顔…流石に怪しんでるな)


「クレー「この前食べた…与一って私のことクレープ食べれば機嫌治るチョロい女だと思ってるでしょ」


(あかんやつ)


「まぁ…食べるけど…」


(食うんかい)


なんとか場を収めた。


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放課後


(明日って言ってたが、そういえばどこで合流するんだ?)


「PINEしてみるか…」


スマホを弄りながら校門の方へ歩いて行くと人だかりが出来ていた。


《え、本物!?》

《やばいめっちゃ可愛い》

《スタイルえぐっ!足ほっそ!》


ざわざわとしてる集団に目を向けるとおそらくその中心に居るであろう人物と目があった。


「うわ…」


「いたいたー!ヨーイーチーくーんっ!」


太陽すら目を瞑る程の眩しい笑顔で大手を振る鈴音に周りが口を開けたまま固まるカオスな状況になっている。


「ごめんね〜!みんな道あけてね〜!あとチャンネル登録と高評価しといてね〜!」


「ヨーイーチーくーんっ!おひさっ!」


集団を抜けて抱きついて来た鈴音の全身を見て僕も言葉を失った。


「なんで…ウチの制服着てんの…?」


「似合う?♡」


成立してない会話に混乱する頭、ざわざわしてる集団と1人ノリノリな配信者。収拾のつかない状況に一石を投じたのは後から校舎から出てきた氷彩だった。


「…何?この騒ぎ」


氷彩は周りを見渡すと与一に後ろから声を掛けた。


「…与一?その人誰?どうして抱きついてるの?」


肩越しにピョコっと顔だけ出して背後にいる氷彩へとニヤリと笑って


「マーキング♡」

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