第5話 『ヒトタラシ』



「最近ネットを騒がせてる人語を喋る巨大蟹って知ってる?」


鈴音はコーヒーカップを置きながら唐突に疑問を投げて来た。


「あぁ、同じクラスのやつに動画を観せられた」


「幸い今の所世間ではフェイク動画って事になってるけど、あれは成れ果てって言って、生まれ変わり損なった哀れな人間の末路なの」


「あの巨大蟹が元人間!?」


「蟹だけじゃないよ…言ったでしょ。生まれ変わり損ないだって。いろんな生物に変わるはずだったけど中途半端なまま存在を固定されたの」


「なんであの世に居たアイツが現世に居るんだ?」


「仲間が欲しいの。哀れな成れ果ては死者の足を引っ張る…おそらく電車の脱線事故で亡くなった人。つまり君に目を付けたんだよ」


「7月7日の因果律…つまり電車に乗らなくても蟹に襲われる?」


「ギフトで確定した事象を捻じ曲げない限りね。じゃあ約束通りギフトの使い方を教えようか」


「まずギフトを分類別にすると2つ……かなぁ?

発動型と恒常型があるんだよ。ちょうど私達別々に区分されるね。私が恒常型なんだけど意図せずに能力がONになってる状態」


「つまり鈴音は恒常型だったからすぐにギフトのでたらめな存在や色々知覚出来たわけか…」


「正解!君は発動型だね。『ヒトタラシ』かぁ…難しそう…言葉通りなら対象の人物を魅了するとか?」


鈴音はニヤリと笑うと一言


「てんちょーで試そっか!」


悪魔のような事を言い出した。


「…まぁ結局誰かで試すしかないよな」


悪魔は2人いた。


「まず発動型だけど。恒常型と違って明確に使用するって意思とか条件が必要らしいんだよね」


「意思と条件…」


僕は店長の方を見ると心の中で


(服従しろ)


「…何も起こらないな」


「あ、今試してみたんだ。優しそうな顔して意外と容赦無いんだね…」


ゴトッ


「あっ、悪いスマホ落とした。そっち行ったから取ってくれ」


ピタッ


「…」


スッ


鈴音は与一のスマホを拾うと無言のまま与一に手渡した。


「取ってくれたのはありがたいけど。無言で渡すの感じ悪く無いか?」


「…」


「おい?鈴音?」


「…」


『スマホ取ってくれ』


「明確な意思と条件…」


小さく咀嚼するように呟く


「鈴音…戻れ」


「ん…あれ?」


鈴音は自分に何が起きたのかわからず少しテンパった後に思考し


「もしかして、私に使った?」


「あぁ、たぶんスマホを取れって明確な指示とトリガーになるのは…声だろうな」


「てんちょーの時はなんて指示したの?」


「服従しろって」


「えげつなっ!」

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