第28話 バット・ナイトロード

【バット視点】


 僕は、迷う事で強くなった。

 エルフ排除派の父が王の両親を殺してその場で兵士に。

 その後おじいさまに育てられた。

 エルフ排除派の教育を受けて、そして愛を貰った。


 学園に入りフラグと友人になり、学園の教育を受けた事で、おじいさまの偏った考えは分かってきた。

 でも、おじいさまは愛が強くてやさしい、そう、優しすぎた。

 優しすぎるから家族を殺された怒りが憎しみに変わり、絶対にエルフを許せなくなっていた。


 モモイロと会ったのはそんな時だった。

 学園に転入したモモイロが自己紹介をする。


「えっと、見ての通り、エルフです、皆と、仲良く出来たらいいな」


 エルフの彼女が、おじいさまの嫌いなエルフがとてもきれいに見えた。

 僕は矛盾する気持ちを抑えつつ必死で剣を振った、剣を振っている間だけはすべてを忘れる事が出来た。


 手が痺れて、動かなくなるまで振るとよく眠れた。


 

 でもその事で突出した能力を持っていたフラグと、そして、モモイロと、一緒にパーティーを組むようになった。


 クレイジーな噂のあったフラグは思ったよりまともだった、クレイジーではあるけど。

 モモイロは、とても優しくて、その性格にも惹かれていった。


 おじいさまはエルフの血が混じった王族を良く思っていなかったし、エルフを許さなかったけど、2人は悪い人間ではないと思った。

 そして、仲良くなり、僕はパーティーに心を許していた。


 大人になるほど葛藤が増して剣を振る時間が増えて、僕たちは最強のパーティーと呼ばれるようになっていた。

 その頃にはモモイロと僕は恋をしていた。


 おじいさまに嘘をついた。

 

「事が起きた時に備えて冒険者でいたいのです。モモイロは私を信頼しています。今を維持しておくため友好的に振舞いたいのです」

「……そうか、それならば、時が来るまでそのままでも構わん。だがバット。情が移り、ワシを裏切るような事にはならんかの?」


 おじい様の言葉が胸に突き刺さった。

 でも僕は笑顔で言った。

 剣の腕と、嘘をつく事だけはうまくなっていく。

 嘘をつかない返答もうまくなっていった。


「いえ、私はおじいさまを愛しています!」

「信じよう」


 おじいさまは愛していた。

 でも、モモイロには恋をしていたし、フラグの事は親友だとも思っていた。


 想いを胸に秘めて皆にバレないようにした。

 このまま何も起きなければいい、たとえ恋が実る事が無くても。

 


 しばらくしてパーティー4人でエルフの女王の元に向かう事になった。

 僕は油断していた。

 人の目が無いエルフの村、僕とモモイロは自然と手を繋いで、キスをした。

 そしてフラグに秘密がバレた。

 フラグは見ないふりをしてくれたし、エルフのみんなは優しかった。



 王都に帰ってエルフ友好派とエルフ排除派が争った時から胸騒ぎがした。

 そして、パーティー4人が別々の依頼をして来た事で更に不安になった。

 おじいさまが僕を信頼しきっていないのは分かっていたし、裏で何かをやっている気もしていた。


 モモイロがおじいさまに攫われた事を知って僕は走った。

 そしておじいさまに放たれた矢から庇い、今おじいさまに向かって剣を振りかぶった。


「バット、はあ、はあ、ワシを、殺せ、2人で、天国に、家族を、裏切るなあああああああ!!」

「バット! 殺さないでくれ! モモイロと父上を助けてくれ!」


 そう、とっくに決めていた。

 僕は、決心していたんだ。


 僕は裏切ると。

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