第27話 包囲

 俺とミステリはスキーム侯爵の屋敷に向かった。

 屋敷は中心部が中庭になっていて中庭を四角く囲うように作られている。


 父上と兵士が屋敷を包囲していて兄さんは遠征中か。

 兵士に状況を聞く。


「内部の状況を教えて欲しい」

「は! 立てこもっているのはスキーム・ナイトロード侯爵と部下の兵士が数人ほど、そしてモモイロがとらわれているようです!」


 屋上からスキームと兵士に抱えられ気絶したモモイロが姿を見せた。

 父上が叫ぶ。


「バカな事はやめるのだ! スキーム・ナイトロード侯爵!」

「バカな事? バカではない、ワシはワシの理想の為、この国の為に動いている!」

「国の為を思うのならモモイロを解放して降りてくるのだ! 共に国を富ませ、平和に導いて行こうではないか!」


「平和!? 平和だと!? それはエルフとの和平か! もううんざりだ! ただでさえ王の血は半分エルフで穢れた! そして今度はこのエルフが我が物顔で王都を歩いている! それを許したのは王の責任だ!」

「想いの違いはあっていい! 今必要なのは対峙ではない! 対話だ!」


「この国は再び立ち上がり戦わねばならん! エルフを滅ぼすその日までは戦う運命だった! ワシは元の流れに戻すだけだ!」

「戦争で民は飢える! また泥沼に、お互いを削って貧しくなるあの時代に戻りたいのか!」


「違ううううう! 昔のラブエルフ王国は誇りを持っておった! 昔の誇りを取り戻す必要がある!」

「スキーム、落ち着くのだ! 50年前に比べこの国の犯罪率は低下し、上に苦しむ民も減り」


「うるさあああああああああい! 黙れええええええええええええええええええええええ! ふー、ふー、ふー、皆が見ている目の前でこのエルフを殺す! そしてこの国は誇りを取り戻す! 皆に見せてやろう! こいつが死ぬ様を! 中庭で口封じすら出来ないほど派手に処刑してやる!」


 スキーム達が下がっていった。

 俺は収納から爆弾を取り出した。


「フラグ、もう準備は出来ているようだな。やっても構わん」


 俺は無言で頷いた。

 その瞬間に兵士が焦って叫ぶ。


「総員、一旦離れろ! フラグ様が屋敷を爆破するぞ!」


 屋敷に爆弾を投げた。

 罠があったとしても破壊する!


 チュドーン!

 チュドドドドーン!


 屋敷の一面が崩れて中庭が見えた。

 俺と王は兵士と共に瓦礫を乗り越えて中庭に入っていった。


「来るな! 来ればすぐエルフを殺す! 下がれ!」


 モモイロに剣が突き立てられた。


「まずは話をしようではないか」

「サイコン王、分かっておるぞ。正面から爆弾で注意を引き、裏からは弓兵が潜んで救出の機会をうかがうつもりだな? ワシはこの時の為に準備しておった」


 スキームの周りを結界が覆った。


「これで話が出来るな。スキーム」

「いいだろう。ワシからの要求を聞くんじゃ」

「話を聞こう」


「サイコン王、王位を退き、アニサマ・ラブエルフに王位を譲るのだ!」

「理由を聞こう」

「さっき言った通りじゃ、王の血はエルフで汚れた。だがアニサマの血はまだ人族が多い。これから数世代に渡り王位を継承すればエルフの血は薄まる」


「では、私が王位を譲ればモモイロを解放してくれるのか?」

「まだある、エルフとの戦争、もちろんこのエルフは殺す」

「それは無理だ」


「知っておる。だから、ワシがそうしてやる、皆が見ている前でエルフを殺す」

「待ってください!」


 バットの声がした。


「どうかおやめください!」

「バット、来て、しまったか」


 もう、父上が言っても無理だ。

 止められるとしたらバットしかいない。


「今ならまだ間に合います!」

「もう手遅れだ、エルフの血で王家は穢れた。じゃがまだできうる限りマシな未来を作るん。バット、ワシにつけ、お前はワシの孫だ」


 やめろ!

 それ以上言うな!

 スキーム、それ以上言うな!

 恐る恐るバットを見た。

 バットの顔が苦痛に歪んでいる。


「バットはワシの家族じゃ、ワシにつけ、お前にはそう教えてきた。フラグのパーティーになる事を許したのもエルフを捕えるのに都合が良かったからだ! バット、お前が向こうにつけば家族を裏切る事になる! ワシを裏切る事になるのだぞ!」

「おじい様、どうかそれ以上はおやめください」


「バット、家族を裏切りたくなければ、黙ってここを立ち去れ。ここをもうすぐ、爆発する。フラグ王子、感謝しておるぞ、王子が防壁の外に埋めた爆弾を持ち帰り研究した結果、この爆弾が完成した」

「なん、だと!」


 スキームが隣にあるでっぱりから布を外すと爆弾が連結された魔道具が出てきた。


「そうか、父上とモモイロ、両方を爆弾で吹き飛ばす気か! この屋敷を吹き飛ばす威力の爆弾で!!!」


 俺はスキームと話すふりをしつつ皆に状況を知らせた。


「その通りじゃ! 結界解除! このボタンを押せば、がは!」


 スキームに矢が突き刺さった。

 その瞬間に俺は走りスイッチを奪い取った。


「はあ、はあ、むだ、じゃ! ワシが死んでも爆弾は爆発する!」


 その瞬間にスキームに無数の矢が飛ぶ。それをバットが剣で叩き落とし、庇うように矢を受けた。


 スキームが叫んだ。


「バット、はあ、はあ、ワシを、殺せ、2人で、天国に、家族を、裏切るなあああああああ!!」


 俺もスキームの叫びを打ち消すように叫ぶ。


「バット! 殺さないでくれ! モモイロと父上を助けてくれ!」


 バットがスキームを殺せば父上も、皆も死ぬ。

 バットが俺も、スキームも見ないで言った。


「ごめん、僕は」


 そしてスキームに向かって剣を振りかぶった。


「バット! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

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