第29話 クレイジー王子

 バットは叫んだ。


「僕は、おじいさまを裏切る!」


 バットがスキームの頭を剣の横腹で殴った。

 そしてスキームとモモイロを両脇に抱えて外に走って行く。


 兵士がスキームの兵士を倒すと俺は叫んだ。


「全員でここを離れろ! 今すぐにだ!」


 みんなが避難する。

 だが俺は爆弾に近づいた。

 ……ショックを与えれば爆発するタイプっぽい。

 どっちにしろ危ないな。


 どうする?

 どう言う?

 どういえばバットを助けられる?


 スキームを庇ったのは殺してしまい爆破をさせないため。

 でも、バットの父が王族を殺し、次はスキームが事を起こした。

 このままでは流れのままスキームが罰を受ける可能性がある。


 特に旧エルフ友好派は影響力を失ったナイトロード家を潰そうとするだろう。

 今までのエルフ排除派とエルフ友好派の因縁は簡単には消えない。

 武装して対峙するほどお互いに恨みがたまっていた仲だ。


 やらかして、ごまかす。

 バットよりも、圧倒的に俺がやらかせば、それでも行けるか?

 いや、やれることがあるなら何でもやる!


 屋敷を出て言った。


「避難状況を教えてくれ」

「全員避難完了しました」

「ありがとう。総員衝撃に備えろ! あの爆弾を破壊して来る!」


「フラグ様がまたやらかすぞ!」

「もっと離れろ!」

「フラグ様、もう少しお時間を! 重要書類の持ち出しをしてからにします!」

「いや、危ない。どんな仕掛けがあるか分からない」


 俺はまた屋敷に近づいて中庭にある爆弾に爆弾を投げ、そして全力で退避した。

 ドタバタしている今しかチャンスはない!

 最高のやらかしをお見舞いする!


 チュドドドドドドドドーン!


 衝撃で軽く吹き飛ぶがそれでも走って何とか脱出できた。

 屋敷を見ると粉塵が舞い上がり木っ端みじんに吹き飛んでいた。


 爆発が落ち着くとみんながバットを見た。

 バットは矢を受けて血を流し、父上に膝をついていた。


「はあ、はあ、今回の件は、私の、責任です。私の首をお跳ねください」

「「……」」


 ボロボロになり、頭を避けるバットを見て、皆が哀れむような、それでいて切ないような顔をした。

 なんで言った!

 何も言わずにいれば助かったのに!


 ……ああ、そうか、バットはスキームを助けたいのか。

 次に言う事が分かる。


『ですのでどうかおじいさまの命だけはお助け下さい!』


 俺は、俺が何とか出来る。

 まだ話はまとまっていない、でも、全力でごまかす。

 だって俺はクレイジー王子なんだから!

 いつも適当で、企んでいて、やらかす、そういうキャラだ。


「はははははははははは! バット! よくやってくれた! 作戦通りだ! な! うまくいっただろ!!」


 俺は空気を読めないふりをしてバットに肩を回した。

 そしてポーションを飲ませて口を塞ぐ。


「今はこのポーションでけが人の治療をしてくれ」

「でも」

「黙れって! 早く治してくれ!」


 こうやってモモイロと、スキームに自然な形でポーションを飲ませる。

 スキームを殺しにくい雰囲気を作り上げる。


「状況を説明しよう! 俺とバットはパーティーだ、だから高度なアイコンタクトで指示を出した。スキームを殺さないようにとな! だって守らないと爆弾があんな風に爆発するから! そしてまた合図を送って手筈通りに裏切って貰った! おかげで全員が助かったわけだけど、失敗もあった、俺とバットの計画にスキームは気づいていた! だから何を仕掛けてくるか分からず、今回は後手に回った!」


 父上も話を始める。


「全く、脱出するまでは良かった。だが、爆弾事屋敷を爆破したせいで証拠書類や魔道具作成の形跡が残らん、これではスキームの調査を行うのに時間がかかるではないか!」


 父上はスキームを殺さない発言を大声で言ってくれた。


「いえ、私はあれが最良の判断だったと確信しております! あの爆弾は衝撃で誘爆するやべえ爆弾です! 見ればわかります! 国の為に危険を冒す勇敢な兵の命、民の命より大事なものがありましょうか? いえ、万が一があってはいけない! いけないのです!」

「お前の爆弾も同じくらいやべえ爆弾ではないか?」


「承知しております!」


 俺は舌を出しながら敬礼した。


 ここで兵士の顔が和らいだ。

 そう、これでいい、俺のクレイジーキャラでうやむやにする。


 兵士長が機転を利かせて声を上げた。


「スキームを捕え、牢に幽閉します!」

「うむ、頼んだぞ」


 これでいい流れになった、そしてここで更にぶっこんで話を逸らす。

 この方法は日本でもやられている事だ。

 例えば官僚の改革を進めようとすると何故か都合のいいタイミングで政治家や芸能人の不祥事が出て改革がうやむやになる。

 マスコミもネットもその事件で大きく騒いで本当に必要な改革が出来ないまま事件叩きだけをする意味の無いバッシングにすり替わる。



「父上!! 提案があります!!」

「声が大きい、が言ってみろ」


「このままではバットがエルフ排除派だと思われ悪い噂を流される恐れがあります。私がパーティーとしての活動するにあたり非常に面倒です。そこで、バット・ナイトロードとモモイロには結婚してもらいエルフ排除派でないことを証明してもらおうではありませんか! エルフ排除派筆頭の孫がエルフと結婚する、これによりエルフ排除派は今度こそ終わりでしょう!!」

「ふ」


 父上が小さく笑った。

 俺は兵士の前で熱弁を続けて、結果その場は収まった。




 少し後の話になる。 

 スキームは獄中で自らの命を絶った事で父上はバットと対話する。

 その後父上は策に打って出た。


『スキームが悪かった、そういう事にしてうやむやにするから今度こそ王家の側について欲しい』

 

 そう言ってすべての貴族が王家側につくと宣言した。

 俺が矢を受けた事件。

 そしてスキームが起こした事件とスキームの自害。


 この2つでエルフ排除派は完全に勢いを失い、父上はエルフ排除派の取り込みに成功した。


 そして、エルフ排除派を悪者にしない為、民の目を逸らす為、そういう建前の元バットとモモイロの結婚式が準備された。

 当然モモイロに次何かあればエルフ排除派が疑われる事を伝えた上でだ。


 スキームの死については様々なうわさが流れた。


『王がスキームを亡き者にした』


『スキームは兵士が自殺させるように仕向けた』


 だが父上は噂を放置した。

 そうする事でエルフに恨みがあっても何も言えない雰囲気が出来た。


 様々な根回しと噂が絡み合いエルフ排除派とエルフ友好派の戦いは終わった。




 

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